転生して4日目2
「へ~そうなんだ~」
エッゾ地の日の入りがいくら早いと言っても、昼間で寝てから寝なおしたら夕暮れに目が覚めてしまった。やることも無いし、生垣の外は治安が最悪だしで、なんとなくキンメツゲくんと話をしていたら盛り上がってしまった。
キンメツゲくんは挿し木で苗になった後、町中に植樹されているらしく、エッゾの町のキンメツゲくんは全部同一人物? らしい。ゆったりと意志をネットワークっぽく共有しているそうで、町の30%くらいのエリアをカバーしていて、本体のキンメツゲ君という物はなく、キンメツゲくんというぼんやりとした自我の様なネットワーク存在なんだって。
ススキノが出来たばっかりの小さな砦だった頃からこの地に生えていたらしく、まさにススキノの歴史の生き字引と言ったところだ。植物と話せる人間、エルフ? が久しぶりらしくて嬉しくなっちゃったみたい。なんかず~っと話してるわ。
今は巨人と交渉が決裂して、巨人が初めてススキノに攻めてきた時の話を聞いている。
私はお婆ちゃん子だったから、こういう年寄りの長い昔話って大好きだったんだよな。じいちゃんもばあちゃんも未就学児の私相手によく戦争の話をしてくれたもんだ、たぶんあれは独白の様な物だったんだろう、親族の誰も戦争中の話を聞いたことが無かったから、何も分からないし覚えてないと思ってたんだろうな。なんかやたら覚えてるけど。
多分これもすげぇ貴重な話なんだろうね、ゲーム時代だったら、庭師をGMまで上げて生垣に話しかけたら何かイベントが始まったんだろうな。誰がやるんだよ、庭師とか冒険者じゃ死にスキルだぞ。まぁ普通に面白くてずっと話を聞いてるけど。
英雄が相打ちで巨人の将軍を倒して第一次巨人侵攻が終息した辺りで、切がいいのでお暇することにした。年寄りの話は長いと相場は決まっている、気が付けば日もとっぷりと暮れて、夜ご飯も終わるころだろう。
「キンちゃんありがとな、助かったよ、もう行かなくちゃ」
キンちゃんも名残りを惜しんでくれて、一番安全にこの町から脱出するルートを教えてくれた。
「また来るからさ、そん時はまた話の続きを聞かせてくれよな」
そう言って私は銀行のアイテムボックスから黒い笛を取り出して吹いた。音にならない音が鳴り響き黒い影の様な動物が湧き出た。それは私の愛リャマ、エセリアルの乗りリャマくんである。跨るとチョコチョコと小さな歩幅ながら結構なスピードで走り出した乗りリャマくんは、あっという間にススキノの壁門をくぐり街道への道を走り続けた。
いきなり転生して雪の森に放り出されて、二日歩き続けてやっとの思いで文明社会に帰還を果たしたと思ったら、文明は文明でも退廃を極めたソドムの市だった。自分は女になっていて、慣れない旅で必死だったのに着いた先はさらに身の危険を感じる場所だった。オチャラケてでもいなければ、正直心が辛かったのだ。そんな時にキンちゃんだけが私にやさしくしてくれたんだ。まぁ人じゃなくて生垣の都市精霊みたいなもんだったけどさ、心が救われたんだ。
小高い丘の上から振り返ってススキノを見下ろすと、ひっそりと息を潜めように静まり返っていた。ススキノがこれからどうなるのかは分からないけど、またいつかキンちゃんに会いに来よう。そう心に誓うと、私は乗りリャマくんに拍車をかけたのだった。
とりあえず、第一章・転生してからサバイバル生活 が完結して、第二章・拉致られて部族生活編 がスタートするのよ。




