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Boundary  作者: あれっくす
第一章
8/10

第六話 鬼だ

「早くそこを出ろ!」

 キリコがエレベーターの中の秋斗に向かって叫んだ。秋斗は凛の手を取ってドアに穴が開いたエレベーターから出た。

「なんだ今のは?」

 秋斗が問う。

「私の魔力をコイツに突っ込んで適当に放出させればこれくらいは吹き飛ばせる。それより早く表に出ろ! お前に仕事がある。いや課題と言った方が正しいか……」

「もう夜だし寝た方が良い。俺にも用事があるし」

 凛は何か用事があったのか早々と何処かへ去ってしまった。

「それでは遅いのだ! この様子を見ればわかるだろう」

 そう言えばフロアが暗い。もう皆寝てしまったのだろうか。

「焦れったいな」キリコは秋斗を捕まえて階段へと走った。途中窓があって外を見ると町の灯りは外灯すらも消えていて、下はほぼ真っ暗だった。それとは対照的に空の方は妙に明るかった。雷だ。

「お前にもわかるだろう?」

「何が?」

 玄関に向かって全力で走って数分で屋敷から出られた。なんとも広い屋敷だ。

 外には雷雲が立ちこめていた。いや立ちこめているのはこの町内だけだ。遠くの空には雲はなく星がうっすらと見える。

「来るぞ!」

 キリコがそう叫んだとほぼ同時に、近くの納屋に凄まじい音を立てて雷が落ちた。納屋は焼けこげ火を出して燃え始めた。

「はあ、危なかった……。これどこが仕事なんだ」

 キリコは近くの空を見据えながら、

「もう一発来るぞ。早く戦え!」

 と、秋斗に言った。

「何と戦えって言うんだ? 危ないから屋敷に戻ろう」

 秋斗はキリコと鳥かごを屋内に戻そうとした。

「放せ! 戦えと言っているだろう。このままではこの町が潰されてしまうぞ!」

「雷を見るのが初めてなんだな。魔界には無いんだ」

 秋斗はそう理解してキリコを引きずって玄関へ入れた。

「あんなものは放っておけば止むんだ。怖いのはわかるが大丈夫だ」

 秋斗はキリコの肩を優しく抱いた。

(これで落ち着いてくれるかな)

 しかし、キリコに変化はなく相変わらず外に出ようとしていた。

「逃げるのか」

 低い声が聞こえた。秋斗はルシファーの方を見る。

「こいつが口を聞くはずはない。外だ!」

 秋斗は玄関のドアを開けて外に出た。さっきより雲が低くなっている。これは一雨ありそうだ。

 低い雲のさらに低い部分が畳一枚分くらい分離してもっと低くなってきた。

「ヒトは弱いのう」雲から声が聞こえる。

「誰か乗ってる!」

 秋斗は何かが雲に乗って降りてくるのがわかった。

「早く戦え!」とキリコ。

 どうやらキリコは何がいるのか初めからわかっていたらしい。

(説明不足なんだよ)

 雲の人は徐々に地上に近づいてきた。上に乗っていたのは上半身裸のおっさんだった。筋骨隆々で、髪を縛っていて、目が大きい。背中には羽衣をまとっていた。

「雷神だ。心してかかれよ」

 緊張感のあるキリコの声、雷神は雲を降りて大地に立つ。

「二人と一匹か。いや、その姿、見間違えはせぬぞ。魔王ルシファーではないか」

 ルシファーは有名らしい。

「ヒトにとらわれたのか。無様だな」

『雷神、我が輩を助けろ! ゲートを広げここにお前らを呼んだのは我が輩だぞ!』

 ルシファーは神通力で雷神に話しかけた。当然秋斗やキリコにはわからなかった。

「そんなに面白い姿でよくそんなことが言えるな。助けて下さい、雷神様だろう?」

『う、我が輩、そのような屈辱的なことを申さねばならんのか』

「言えないなら、一生鳥かごで暮らせ」

 キリコは秋斗に耳打ちをした。

「お前ならあんな男、簡単に仕留められるだろう。独り言を話しているうちに倒してしまえ」

「いけるか?」

「あのルシファーの一撃を耐えたのだ。雷神など全く取るに足りない」

 秋斗は目で「やってみる」と伝えて雷神に向かって前振りもなく全力疾走した。

 まだルシファーと会話をしている雷神の腹に秋斗の横蹴りがクリーンヒットする。雷神は二メートルほど吹き飛んで仰向けに倒れた。

「何をする! 話している最中に攻撃なっ」

 そしてさらに倒れている雷神にストンピング。顔面や胸を執拗に踏みつける。顔に軸足を乗せて横っ腹に思いっきり蹴りを入れる。

 体重は常人と変わらないのであまり威力はない。

「早くトドメを刺してしまえ! 雷を打たれると厄介だ」

 キリコの声も届かず秋斗は必死で倒れている雷神を蹴り続けた。

 が、それも長くは続かず、雷神は秋斗を押しのけ立ち上がった。秋斗はさらに攻撃を続けた。

 何度も何度も秋斗のキックが綺麗に決まるが雷神は痛がりのけぞりはするもダウンする気配がない。

「忘れていた。魔法攻撃で無いと雷神には致命傷は与えられないんだった」

 キリコのつぶやきを耳にした秋斗は「え?」と言って攻撃をやめた。

 その刹那、雷神の足下に雲が生成され雷神は雲と共に高く舞い上がった。

「おい! 攻撃を止めるな!」

「もっと早く言え」

「仕方ないな。こいつに頼ろう」

(いやいや、それが出来るなら最初からそうしてくれ。今までの下りなんか意味あったのか?)

 キリコは鳥かごを開いてルシファーを外に出した。

「いくぞ」

 両手をルシファーの額にかざし何かをし始めている。

「このおでこにお前のでこを付けろ」

「気味が悪い。お前じゃ駄目なのか?」

 秋斗は目の前にルシファーの顔面があることを想像した。

「契約者でないと無理なのだ。我慢してくれ」

 いやいやながら秋斗は両手でルシファーを持ち上げて額を付けた。

 酷い頭痛がして目の前が真っ白になる。

 気が付くと、持っていたルシファーは消えていた。

「さあ、完了だ。早くあいつを倒せ」

「完了って……本当にこれでいいのか? 何も変わってないぞ? その前にルシファーじゃなくて俺が戦うのか?」

「余計な思考を入れるな。早くしないと雷が来るぞ」

 空からゴロゴロと音が聞こえる。どうやら連続では撃てないらしい。

「飛べ!」

 秋斗は真剣に地面を蹴った。今までこんなに本気でジャンプしたこと無いだろう。

 それが功を奏してか、思ったより三十メートルほど高く飛べて雷神を見下した。と思ったら一気に落ちていって着地した。

「……これは」

 もう一回飛んでみる。今度は雷神に当たるように。

 再び地面を蹴る。体が慣れたらしく前回よりスピードが出た。そして高く高く上がっていって――。

 頭が何かにぶつかった。よく見ると頭に雷神が乗っている。

「貴様、何者だ!」

「ああ、鬼だ」

 頭に乗っていた雷神を足の裏に移動させてそのまま降下した。

 速さはぐんぐん上がっていって、秋斗は地面に落下した。足の裏には雷神の死体。

「良くやった」

 キリコが褒めてくれたので秋斗は少し嬉しくなった。

「これが仕事なのか?」

「お前は魔界を知らない。私はお前の強さを知りたい。ゲートから出てきた魔物を倒していけば両方そのうち答えが出るだろう。それに私がこの世界に与えた魔法的証拠も消さねばならない。いつになるかわからないが、それまでこの世界で魔物退治をして貰う。終わる頃にはお前もいろいろわかるはずだ」

「俺の意思は?」

「この際無視でいいだろう」

「……」




 どうやら、エレベーターが止まったのは雷神の過放電による停電が原因らしかった。秋斗はそれをキリコに聞かされて、すぐに用事を思い出した。

(瞳さんに会うの忘れた)

 何か説明したがるキリコを無視して秋斗は屋敷を彷徨き始めた。

 彷徨き始めて五分も経たない頃、廊下で瞳が歩いているのを見つけた。

(初めの苦労はなんだったんだ)

 近づいていって、挨拶をする。

「こんばんは。あの昇平さんがですね。じゃなかった。俺、泊まらせていただきたいんですけど、部屋がないみたいで、昇平さんの部屋をお借りしたいわけで、昇平さんをあなたの部屋で寝かせてあげられないでしょうか?」

「そうですね。いいですけど、なぜ私に頼むのでしょうか? 他にも大勢おられますけど。最初に談話室にご案内したからでしょうか?」

「いや、それは俺があなたに惚れたからで……」

 秋斗はこの言葉を使う必要がなかったことに気がついたが、訂正するのは面倒なのでそのままにしておいた。

「だったらあなたが私の部屋を使ってはどうですか? 昇平様がお泊まりになられるのは些か問題がありますが、あなたなら泊めても問題はなさそうですし」

(それは問題ありなんですけど……昇平さんになんて言おう)

「昇平さんでも問題ないと思いますけど」

「それがあるんですよ。だってもしメイドの誰かが昇平様のお子さんを身ごもったりでもしたら、その方は一気にランクアップ。金竜家の仲間入りです」

(やっぱりそうなるんだ。僕なら大丈夫と……)

「ですから、あなたが私の部屋に来なさい。私も今仕事が終わったばかりで部屋に帰るところです」

 そう言って瞳は笑った。

(明日謝ろう)




 瞳の部屋はとても女らしい匂いがして秋斗にとって居心地が悪かった。

(そう言えば俺、唯の部屋以外、女の子の部屋なに入るのなんて久しぶりだな)

「では、私はシャワーを浴びてくるので適当にくつろいでいて下さい」

 瞳は浴室に入った。この屋敷ではメイドの部屋にも一つずつ浴室が付いているのだ。

 秋斗は近くにあったベッドに腰を下ろそうとした。その時浴室の戸が開いて裸の瞳が出てきた。

「秋斗さんも入られますか? それでしたらお湯を張りますが」

 秋斗はとっさに目を伏せた。女の裸なんて祖母のしか見たことがない。動画や絵ならあるけども。

「ちょっと! 見えちゃいますよ……」

「ああ、すいません。見苦しい物を見せてしまいました」

 瞳は両手で大事な部分を隠した。

(いや、ものすごく綺麗だった気がする。得したのかな)

「俺は家で入ったので大丈夫です」

「でも傷が……」

 秋斗は怪我をしたことを忘れていた。

「しっかり洗っておかないと、あとが大変ですよ。よかったら私が流して差し上げましょうか?」

「これくらい大丈夫ですよ」

「そうですか?」

 瞳は寂しそうに浴室に戻っていった。

ありがとうございました。

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