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Boundary  作者: あれっくす
第一章
7/10

第五話 我が名はバフォメット

 秋斗が部屋を出たのを確認すると、キリコは門のあたりに向かうことにした。ルシファーは他の魔物よりかなり賢い。この大きな屋敷の見取り図を覚えて出口まで迷わずに行くことなど簡単なはずだ。

 廊下を走って屋敷の外へと向かうがどこも似たような装飾なのでキリコはすぐに迷ってしまった。

(いつもの道を行けば大丈夫なはずなんだが)

 こんな所で迷っていては仕方がない。キリコは闇雲に歩き回ることにした。とりあえず窓だ。窓を見つければ出口は近い。それにその気になれば飛び降りることだって……。

 案外窓は早くに見つけられた。もうその時点で何階のどこにいるかは全くわからなくなっていた。外の景色を眺める。

 午後十一時を田舎は暗い。民家の窓もほとんど真っ暗でビルなんて遥か遠くにしか見えない。しかしその日は何か違った。

 地上の風景はほとんど変わらない。が、空には何か大きくうごめくものがある。雲じゃない、何か能動的に動くもの。

(……龍だ!)

 空には龍の大群が雲のように敷き詰められていた。おそらくルシファーが広げたゲートから出てきたものだろう。

 キリコはしばらくそれを見つめたあと再び廊下を走り出した。



 彼女はゲートを甘く見ていた。例え中から何か出てもゆっくり対処すれば何とかなると思っていた。もし自分でどうにか出来なくてもこの世界のヒトならどうにかすると思っていた。そう思ったので、一応閉じはしたがあまり心配することはなかった。

 ようやく屋敷から出たキリコは門の前で転がるルシファーの生首を見つけた。ルシファーの力は弱まりすぎて門を自力で開けることすら叶わないのだ。

(面倒な奴だ。他にもいろいろ面倒があるのに……)

 キリコはため息を吐きながらルシファーに近づき髪を掴んだ。

「今度からは檻に入れて保管しよう。それがいい。何処かで檻を借りてこようか」




(――確か学校だったはず)

 神田川唯は夜九時の学校へと足を運んだ。

(私に隠しても無駄なのよ。文面見えちゃってたもん)

 秋斗の言動が気になって唯はその行動を探ることにしたのだ。そして案の定、彼女は校庭で何か起こるのを目にした。

(何……あれ……)

 秋斗が戦っていた。何かわからない黒いものと。唯はそれを陰から見守った。そして、秋斗がキリコをかばったのを見た。

(なんで、あんな女を! あんな女死んじゃえばよかったのに)

 遠くからでも秋斗の鍛えられた肉体がはっきりと見える。秋斗はキリコにもたれかかった。

(あのポジションは私のもの……)

 唯は悔しがった。長年秋斗の面倒を見てきたのに、なんであんな昨日今日現れた女なんかに。唯は気がおかしくなっていた。なので現れた黒い奴がなんなのか全く考えようとしなかった。

 黒い者が何かをし始めた。地面に何かしている。唯はそちらを見ることなく秋斗とキリコの様子をずっと睨んでいた。

(いつか……殺してやる)

 彼女は右手をギュッと握った。

 その時黒い者のそばから何かが上った。火山の噴火みたいだ。すぐにそれは柱みたいに高い所まで届いて空に広がった。そして四方に散らばった。

「何あれ?」

 遠すぎて一つ一つまでははっきり見えないが、何か奇怪な生き物たちが空を飛びどこか遠くへ散らばっていくのがわかる。

(意味がわからない。何がどうなっているの?)

 彼女はあっけにとられてそれを眺めていた。

 ――と。

 その中に一つ、不自然な動きをする者があった。全身肌色で白い羽が生えていて宙に浮いている。唯はそれが妙に気になって注視していた。

 それは徐々に唯に近づいてきて、やがて女の形であることが視認できるようになった。しかし頭に羊みたいにねじれた角が二本生えている。

(天使? 天使なの?)

 唯はだんだん大きくなる女を静かに待った。

「あの魔族の女が憎いのでしょう?」

 近づいてきた女が言った。

「誰? なんのつもり!」

「我が名はバフォメット。あなたを助ける為にここへ参りました」

「助けるって、私は何も困ってないわ!」

「あそこにいる男をどうにかしたいんでしょう? それならば女を殺さなければならない。あなたにもわかっていることです。でも今でなくてもよいでしょう」

 そう言ってバフォメットは地上に降りた。透き通るような金色の髪をなびかせ真っ白な羽根を閉じた。よく見ると丸裸で隠すべき所も隠されていない。唯にはその堂々とした様子がとても頼もしくて、彼女はすぐに信用してしまった。

「服」

「服がどうかしましたか?」

「服を着ないと恥ずかしいでしょ?」

「え?」バフォメットは自分の姿を確認した。「きゃ! なんで、今まで毛に覆われてたのに!」

 バフォメットは隠すべきところを羽根と両手で隠した。

「うちくる? 着るものくらいは用意できるけど……」

「ありがと! 恩に着るわ。ついでに今夜泊めてくれない? 私行くとこなくて……」

「そうだと思った。別にずっとでも平気よ。明日だって明後日だってずっと大丈夫よ」

「それはありがたい!」




 秋斗は金竜家の廊下を音が出ないように静かに走っていた。あの大きな部屋を出るとそこに瞳さんがいると思ったらいなかった。それなら近くにいると思ってそのフロア全てを探してみたが瞳さんの姿はなかった。

(そんなに長い時間話してなかったから、近くにいるはずなんだけどなあ)

 金竜家は敷地も広いが縦にも広い。つまり高さがある。談話室は二階で、昇平と会った部屋は最上階で六階だ。エレベーターがあるので行き来は楽だが人捜しは困難を極める。

 次は五階か。

 秋斗はエレベーターを使おうと思ってボタンを押した。直後にチーンと鳴ってエレベーターのドアが開く。

 中には門で会ったメイドの小さい方がいた。

(……なんだハズレか)

「変態! 寄るな! エレヴェーターに入ってくるなよ!」

 小さい方は短い手を振り回して秋斗が侵入するのを防ごうとした。

「人を探してるんだが」

 秋斗が話しかけるが小さい方は全く聞く耳持たず腕を振り回した。

 仕方がないので秋斗は無理矢理エレベーターに入ろうとした。

「私を犯す気か? そんなことしたらお姉様が許しはしないぞ! か、一馬様だってお前を……お、恐ろしい目に、遭わせるぞ」

 たいそう怯えた様子でいるので秋斗は困ったが、ここで止まっていても仕方がないので中に入って五階のボタンを押しドアを閉めた。

 閉めたら小さい方は本気で秋斗の腿を殴った。鍛えられた秋斗の腿はどうということはなく平常運転だが、さすがに可哀想になってエレベーターの『開く』ボタンを押した。今なら六階に下りられるはずだ。階段で下りよう。

 が、ドアは開かなかった。

「開かない」

 言った瞬間に照明が消えて真っ暗になる。

 他のボタンを押してみるがどれも反応がない。非常時通話ボタンも機能していないようだった。

「私を閉じこめてどうする気だ! 言ってみろ! 早く! 言えないんだろ? そうなんだろ?」

「いや、ホントに開かない」

 物理的にこじ開けようとするがびくともしない。これ以上力をかけるとドアが曲がる。

 仕舞いには小さい方の目が潤んできた。

「嫌だ。こんな男に、私の純潔があああああああああああ……。責任を…………責任をとれ!」

 そしてついには泣き出してしまった。

「なんの責任だ?」

「お姉様、すいません。私は汚れてしまいました」

「汚れてないぞ! すぐにエレベーターは動き始める。それまでの辛抱だ」

「……うう」

 小さい方はエレベーターの角でうずくまった。

「瞳さんっていう人探してたんだが、今どこにいるのかわかるか?」

「……お姉様」

「え」

「私に振られたら次はお姉様を狙うのか。でもお姉様は私のように優しくはないぞ。お前なんかケチョンケチョンにされてしまうぞ」

「ああ、瞳さんの妹か。俺は秋斗、綾瀬秋斗っていうんだけど、よかったら名前を教えてくれないか? 話しにくいんだ」

「お前に話す舌など持たん」

 秋斗は、はあ、とため息を漏らした。

(なんというか……どうしようか)

 秋斗は気付いた。この家には使用人と金竜家の人々しかいない。夜はほとんど寝ている。だとするとエレベーターが動いていないことに気付く人っているのか?

 いないだろう。いるとすれば昇平、瞳さんと、あとは……。

(貴理子? エレベーター使わないよな)

 この世界の人間ではないと言っていたし、こっちの物には詳しくないと考えるのが妥当だった。

「――すまん」

「え」間抜けな声が漏れる。

「いや。私の名前は凛だ。呼びたければ勝手に呼べ……」

 凛は照れくさそうに俯いた。

「え、あ、ありがとう。 でお姉さんの場所はわかるか?」

「お姉様は――――――」

 外が何やらうるさい。一瞬秋斗は救助の工事か何かが来たのかと思ったが、違うようだった。それにしては大きすぎる音で轟音というよりは爆音だ。何かを破壊しているような――。

 派手な音がしてエレベーターの入り口が吹き飛んだ。凛は逆側の隅にいて何ともなかったが、秋斗は衝撃で吹き飛んだ。例によって秋斗に傷はない。

「大丈夫か!」

 凛が駆け寄る。

「おい! 秋斗! 仕事だ!」

 破壊されたドアの向こうには仁王立ちするキリコと鳥かごに入ったルシファーがいた。

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