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青春の夜に乾杯  作者: スプ
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忘れられない思い出

 青春の夜に乾杯

【1話】夏の始まり

 うんざりするほど熱された気温に、燃えてしまうのではと思うほど我々を照り付ける太陽、虫達は活動を始め木々は緑色の服を身に纏い生きていることを大きく主張している。


 そう、夏である。


 僕、小雨廉也はこの季節が嫌いだ。ジメジメとした気温は過ごしにくくてありゃしない。冬は厚着すればどうにかなるが夏の暑さは防ぎようがない。他にも嫌いな理由はあるがここでは割愛しよう。


 そして今日は終業式。僕は東京の中高一貫の学校に通う普通の高校2年生。

 陰キャでも陽キャでもなく成績も平凡、友人もそれなりにはいる程度。普段は授業が憂鬱なはずなのにこれから2ヶ月間学校に行かないと思うと少し寂しくなるのは何故だろう。

 そんなことを思いながら僕は教室に入り席に座る。



「なぁ、お前夏休みになったら何すんの?夏休み中寝まくんの?」


 と声が聞こえる。僕に言ったのか。終業式が始まるのを席で待っていたら眠ってしまっていた。顔を上げると前の席には小林誠治が座って僕の顔をマジマジと見つめていた。


 彼は数少ない友人の一人で喋り方やノリが面白くて仲良くなったらよく話しかけてくる奴だ。中学の頃から一緒でよく遊んだりしている。


「いや…まぁ…そうだけど。何で?」


 そう答える。夏休み中勉強や部活に励む生徒は大勢いるだろう。だが僕には本当にやることなど決まっていない。

 将来何をしたいかや今自分がやりたいことなど無い僕にとって夏休みは普段足りない睡眠時間を満足するまで満喫できる期間だとしか思っていないからだ。


「そんなところだと思ったよ。どうせやることなんて無いだろうしな。じゃあ手伝ってほしいことがあるんd…」

「無理。」


 ここで曖昧に断ると面倒くさくなりそうだったから迷わず即答。大切な大切な睡眠時間を削ってまで彼に付き合うつもりは無い。


「ちょ、お前話くらいは聞けよ。キャンプ一緒に来てほしいんだよ。本当は父さんと2人で行く予定で予約も入れたんだけど急用が入って父さんも母さんも行けなくなってよ。絶対楽しいって。な?こんなこと頼めるのお前しかいないんだよ。」


 と目の前で手を合わせ懇願してくる。そもそも普段は学校が終わったらゲームしかしていない彼が何故そこまでキャンプに行きたいのだろうか。


「尚更嫌だ。キャンプなんて面倒くさいし。そもそもお前ってキャンプに興味ある奴だったっけ?てっきり今年の夏休みずっとゲームするつもりだと思ってたわ。」


 そう言うと彼はその質問を待ってましたと言わんばかりに鼻の穴を膨らませ自慢気に話し始める。


「俺等ももう高2だろ?そろそろ…、な?モテたいじゃん。だからこの前この本を買ったんだよ。」


 と言いながら彼が鞄の中の本を取り出す。この本には『最新版!モテている人間の解説本』と書かれていた。


「この本に書かれているには最近の流行りは肌が焼けていてマッチョがモテるらしい。だからキャンプで肌を焼いて筋肉も鍛えりゃ一石二鳥って訳だ。どうよ?俺天才だと思わねぇ?」


 ここまでこいつが馬鹿だとは思っていなかった。確かにモテたい。だが僕にもある程度の常識は持ち合わせているつもりだ。

 こんな碌でもないことを聞かされて共感するほど僕の心は腐っていない。ただもう5年の付き合いだ。とりあえずは話を聞くことにしよう。


「わざわざキャンプでやる理由も分からねぇし。それこそ体鍛えたけりゃ海とかジムとか色々あるだろ。何でわざわざキャンプでやるんだよ。」



「海は美女の水着を見れる絶好の機会だが俺は泳げない!ジムは辛くて面倒くさそう!だからキャンプにしたんだよ。そしてな、このキャンプ場めちゃくちゃ評判が良いんだぜ。巷じゃあ天国への入口って言われているらしい。超広大な土地にプール、バーベキュー場に森林、池、草原の自然もあってWi-Fi完備で完全個室のテントがついている。更に昼には澄み切った青空、夜には満天の星空!これでお前はタダで行けるんだぜ?超お得だよ。」


 長々と紹介サイトから引っ張ってきたような言葉をまるでコピペしたかの如く羅列してきた。大半は聞き流したがとりあえず良いキャンプ場だということは理解した。


 正直魅力的で少し行こうか揺らいだがやはり面倒くさい。しっかり断ろうとしたその時先生が入ってきて校庭に集まるよう言われる。終業式が始まるようだ。彼はすぐに席から立ち上がり


「返事がないってことはYESってことだな!んじゃ場所や日程とか詳しいことはもう一度説明するからよ。んじゃこれ終わったら校門で待ってるからな!絶対に来いよ!逃げんなよ!」


「いやお前ちょっと待…!」

 そう言うと彼はそそくさと校庭に逃げていった。逃げ足が速い。断る機会を逃してしまった。

 よくよく考えたらこの学校の校門は1個しかない。どう頑張っても彼から逃れることは難しそうだ。少し不満気になりながら自分も席を立ち校庭へ向かうことにした。

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