近くにある綺麗なもの
花
ある冬の日。花の上に雪が落ちてポッととけて消えていった。人々は忙しそうに走っている。何もすることがない人だって雰囲気に乗せられてどこかへ走って行く。僕も手伝いに来ていたのだがそんなことも忘れてしまうくらい僕はこの道端にある花に惚れてしまったのだ。何故みんなこの花を見ないのか、こんなに強く綺麗に咲き誇っている花より人が作った輝きの方が綺麗とそれでも言うのだろうか。そんな時、人混みの中でこの景色を悠々と独占している、そんな高揚感を感じた。
誰も見ないもの
「おい、そこで何やってんだ!」そんな甲高い声が僕の胸に届いた。
「お前は本当に手伝う気があるのか!」僕は別に手伝うのが嫌なわけではない。単純に疑問なのだ、なぜこんなに忙しい雰囲気ばかりを出して、近くにある綺麗なものに誰も触れないのか、僕にはその疑問が難しかった。
「父さん、なんでみんなこんなに忙しそうにしてるの、」本当に聞きたいことは口から出ずにいた。僕にはこの疑問を口にする勇気がない、怒られたくなんてないからだ。だから出来るだけ穏やかな怒られなさそうな言葉を選んだ。
「なんでってそんなの地域のみんなで頑張って綺麗なイルミネーションを作るって話だろ?決まってんだろ。」
そう言ってしゃがみ込んでいた僕の腕を無理やり引っ張ってきた。僕はその時、押し殺していた思いが自然と出てきた。
「みんなはさ、わかってないと思う。本当に綺麗なものってさ近くにいっぱいあるじゃん。」
近くにある綺麗なもの
「花だって雪だって周りにあるものは全部ほったらかしにして、みんな忙しそうにして、僕が見ている花はこんなに綺麗なのに、誰も写真も撮らない、撮るのは人が作ったイルミネーションでしょ。」
「綺麗なものなんて近くにいっぱいあるくせに、、」
怖かった、でも言いたいことを全て言い切ったことで心がなんだか綺麗になった気がした。
「裕樹、たしかに、お前の言いたいこともわかる。」裕樹とは僕の名前である。
「だがな、本当に大事なものはな、人が作る綺麗でも自然が作る綺麗でもないんだ、誰がどう思うか、これが1番なんだよ。」
「どういうこと?」僕にはあまりよくわからなかった。
「俺たちが一緒になって作ったイルミネーションで誰かの心が変わればそれでいい、その花だって誰かが頑張って育てて出来た結晶なんだよ。現にそれは裕樹の心を変えた。俺たちにだってそれは出来るはずだ、それが俺たちにとっての綺麗だしそれが作りたいものなんだよ。」
結晶
「みんなの、、作りたいもの。」やっとわかった気がした、本当に作りたいもの、そして大事なものは人の思いを変えられる「綺麗」で、僕が見ている「綺麗」も道端にあるけれどしっかり思いが込められて育てられてきた大事な「結晶」だと気付いた。
「おい、いい加減そろそろ行くぞ、みんなに迷惑かかる」
「はいはい、」少しため息混じりに返事をした。そんな時だった。花に、雪の結晶がポッととけて消えていった。その時、寒くなった体とはまるで反対に心が温かくなった。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございます。まだまだ小説は勉強中で趣味程度でやっておりますが、他の作品も自信があるのでもし良ければ見ていただければと思います!