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倒れる人

作者: 篝火

 

 なぜか、倒れる人によく遭遇する。

 買い物帰りの路上、電車の中、自宅マンション前、自転車で走行中、ジムで。

 すべて偶然だろうけれど、首を傾げたくなる。


 先日も自転車で走行中に、前を歩いていた高齢女性が、いきなり倒れた。

 酷暑の中、アスファルトの上、驚いて周囲を見回すと、少し先に、やはり倒れる瞬間を目撃したのだろう、目を丸くしている女子中学生。


 慌てて自転車を止め、駆け寄る。意識はあるけれど、何だか起き上がるのも危うい。私が走り寄ったことで勇気を得たのか女子中学生も駆け寄ってきてくれた。

 二人して、声をかけながら、体を起こして座らせるが、どうにも立てそうにない。そのうち、子ども連れの若いお父さんが、通りがかって、大丈夫ですか? と声をかけてくれた。


 救急車を呼ぼうとすると、高齢女性は意外にはっきりした口調で、大丈夫、少し休めば大丈夫と繰り返す。一人暮らしで迎えに来てくれるような親族もないらしい。携帯すら持っていないと言う。

 何でもスーパーに買い物に来たとのこと。そのスーパーはもう目の前だった。どうしても本人が嫌がるので、救急車は呼ばず、ふらふらしている高齢女性を若いお父さんが支えながらスーパーまで連れて行ってくれることになった。側で子どもが目を丸くして見ず知らずの高齢女性を救護するお父さんを見ている。いいお父さんだねと心の中で声をかける。

 涼しいスーパーで少し休ませてもらって様子を見るとのこと。

 心配だけど、本人の強い希望だから仕方がない。


 そしてジム、最近は月に1回か2回しか行かないのに、私がランニングしているマシンの横の通路でいきなり女性が倒れた。やはり高齢の女性。

 こんな事ある? と思った。何かが倒れるような音を聞いて目をやると、高齢女性が倒れている。それも硬直したように手は両脇に伸ばしたまま、どう見ても顔面強打している。


 慌ててマシンを停止して、周囲を見るが、あいにく近くに人がいない。たいして大きなジムでもないのに。

 少し離れたところでストレッチをしていた女性も気づいたのだろう、やはり驚いて見ている。

 倒れた高齢女性に近寄って声をかけると、ストレッチ女性もはじかれたように駆け寄ってきてくれた。

 高齢女性はあきらかに硬直していて床に顔面をまっすぐつけたままピクリともしない。スタッフを呼んできますと、ストレッチ女性に言い置いて、受付のカウンターに走る。


 やっぱり動揺している。「利用者」とか「会員」という単語がとっさに思い浮かばず、スタッフの顔を見るなり、ただ「タオレタ!」とカタコト風に訴えてしまう。

 スタッフが「タオレタ?」と見事に繰り返すも、慌てて誘導しようとする私のあとにとりあえずついてきてくれた。

 その先に倒れた時のままの高齢女性。スタッフが2名かけつけて、近くにあったヨガ用マットに反転させて仰向けにしようとするも、体が硬直していてなかなかうまく行かない。

 スタッフも焦っている。三人がかりで仰向けにすると顔面から出血している。鼻か、額かよくわからないけれど、顔面を流れる赤い血に周囲がおののく。


 他のスタッフ、他の利用者も集まってきたので、そっと離れる。通りすがりに若い利用者の男性が、大丈夫ですか? 僕、医大生ですけどと親切に声をかけてくれる。

 スタッフが丁寧に大丈夫ですと遠慮していたけど。


 それから救急隊員やジムの警備員もきて、高齢女性を搬送しようとするけれど、何とかマットの上で体を起こしている高齢女性は大丈夫と答えている。そのろれつもあやしい。

 スタッフが何かあればジムも責任問題になるからと説得している。それならご家族に迎えに来て貰ってと欲しいと言っても、一人暮らしで、迎えに来てくれる親族もないと言う。

 ランニングどころではなくなったので、プールに移動することにしてその場を離れる。高齢女性は大人しく救急搬送されただろうか。


 マンション前で夜、倒れている高齢男性に声をかけた時もやはり大丈夫と言っていたし、迎えにきてくれる親族はいないと言っていた。

 なぜ、みんな「大丈夫」というのだろう? 一人の部屋に無事帰れたとしても不安ではないのだろうか。


「大丈夫」 明らかに立てませんよね?

「大丈夫」 一人で歩けませんよね?

「大丈夫」 顔面流血してますけど?

 ようするに全然大丈夫じゃない。


 もし、自分が屋外のどこかで倒れたら、救急車を呼んでほしい。でも、もし、一人暮らしで、自宅に猫がいたら、犬がいたら、意識があればきっと私も大丈夫と言ってしまう。

 人それぞれに事情があるに違いない。でも一つわかると思うのは、たとえ一人ぼっちだろうと、見知らぬ病院のベッドの上ではなく、住み慣れた自分の部屋で最後を迎えたいということ。


 ジムから帰って、月に1回か2回しか行かないジムで、また倒れる人と遭遇するってどうよ? 最近はもう、救護に戸惑わなくなったし、炎天下の道路で人が倒れたら近くの自販機で水を買って飲ませるくらいできると思うわと娘に告げる。

 娘は最近、多いのよね、と不吉な事を言う。彼女は自動車事故の原因を調査するような会社に勤務している。ここ、最近、運転中に意識を失う人の事故が驚くほど増えているらしい。脳梗塞、心筋梗塞、その他、とにかく意識を失ったという事故が急増しているとのこと。


 なぜか倒れる人と遭遇する機会が増えたと思っていた。でももしかしたら、倒れる人が増えている? 

 それは……何て……不気味。

猛暑です。皆様もどうぞお気をつけくださいませ。

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[一言] すぐ救急車呼べよ。
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