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RAW ~召喚された異世界で不死身の身体に~  作者: 佐々木
第一章 白い暗殺者篇
13/13

013 特級魔獣



 そもそも魔獣とは何か。その定義とは一体?

 魔獣とは遥か古来より存在し、その定義や呼称は時代の移り変わりと共に変わることも度々あった。しかし近年ではもっぱら「人々に害を齎す人ならざる《獣》」を魔獣と定義するのが一般的。

 そして人々へ与える被害、その危険度や有害性を等級付けし区分したものが《魔獣等級》である。


 魔獣等級は主に5段階に区分けされる。

 最低級の5級から始まり、人間への有害性及び危険性が高くなるにつれて等級は高くなり数字は1へと近づく。


 5級(ケルファ)──そのほとんど全てが無害。田畑や環境を一部荒らす程度の有害性で、大凡害獣やそれ以下と言っても差し支えない。一般人でも簡単に撃破可能。


 4級(サミア)──有害ではあるが危険度は低い。稀に子供や女性が襲われ怪我をする程度の被害。大人、または子供であっても戦闘用使力(アーク)を用いれば十分に撃破可能。


 3級(ハシム)──有害。その全てが何かしらの強力な武器を持っており攻撃性に秀でている。危険度が高く一般人による対処が難しい。軍人または訓練された者ならば撃破及び撃退が可能。


 2級(ニア)──非常に有害。その全てが攻撃的且つ凶暴。人間をまるで恐れずそのほとんどが好んで人間を襲うこともあり、魔獣被害の大部分をここに分類される魔獣が出している。一兵卒では対処が難しく、訓練された戦闘用使力持ちの軍人ならば撃破及び撃退可能。


 1級(ロッダ)──もはや災害。害悪且つ最悪。1級に分類される魔獣の襲来はひとつの町をも滅ぼしうるとされる。訓練された軍隊の一個中隊規模の戦力で撃退可能。撃破は厳しいとされる。


 魔獣に分類される全ての生物種は、これらいずれかの等級に区分けされる。

 例外なく、漏れなく全ての魔獣種がこの区分に該当する。

 一般的に、そういうこと(、、、、、、)になっている(、、、、、、)


 しかし、例外的に七種、これらの枠組みを逸脱した規格外の特異魔獣が、この世には存在すると言う。

 それが────


「──それが、特級魔獣ってヤツだ」


 特級魔獣。曰く、それは天災そのもの。

 七つの世界を束ねる魔獣の王。

 その力は他の等級とは一線を画すとされ、比較することすら無意味なほど圧倒的とのこと。


 ある一体は世界を滅ぼしかけたとされ、またある一体は断末魔により数百年にも及んで渦を巻き続ける巨大渦流を生み出したとされ、またまたある一体はとある大陸の大地を草木の一本すら残らぬほど荒廃させたとされる。

 紛れもない、天災そのものである。


特級(ヴィータ)か……しかしレリック殿、特級魔獣とは原則七体しか存在しない筈では?」


 フェルトの言う通り、特級魔獣とは一種一体限りの特異魔獣だ。

 特級魔獣に分類された魔獣はこの世にたった七体しか存在しない。

 僕の読んだ書物の記述によれば、その内三体は英雄スズカトラの手によって討伐されたとあるが、それ以後新たに特級へ位置づけられた魔獣は居ないという。

 眉唾だけど、特級魔獣とはこの世界が想像されたと同時に発生した原初の魔獣とされ、その代わり(、、、)となる存在は居ないのだとか。

 だから、ここで言う「特級に成る(、、、、、)」なんてことは、通常起こり得ないことらしい。


「特級魔獣は新たに発生しない。これは絶対の法則だろう」


 フェルトの言葉に、ひどく驚いたような表情を浮かべるレリックさん。

 目を大きく丸々と見開いて、次第に元に戻り口を開いた。


「なんだ、お前さん達は知らないのか。……以前はそういうことになってたが、魔獣はとある条件さえ踏んじまえば、特級とその権能の引き継ぎ(、、、、)が可能なんだと最近判明したんだよ」


 その言葉に、今度はフェルトの方が困惑する。


「なっ──それは確かか!?」


 剣幕にも似た激しい面相。

 短い付き合いではあるが、フェルトのこんな表情は未だ見たことがなかった。

 だからこそ、フェルトは本気で驚いているのだと理解できる。


「《奇王機関》の研究結果だ。まず間違いないだろう」


「《奇王機関》────S/W(サイエンスウィザード)か……」


 なるほど、と納得した様子のフェルト。

 しかし、《奇王機関》と呼ばれる何某は一体何者なのだろう。


「しかし、特級の引き継ぎとは通常起こり得るのか……その、条件というのは?」


 フェルトの問いに「ああ」と短く頷いた後、その条件に付いての説明を始める。


「伝承にもある通り、全ての魔獣の起源は七体の特級魔獣だ。言い換えれば、やつらは漏れなく特級魔獣の血族──その遺伝子を例外なく所有していることになる。ここで重要なのがこの特級遺伝子(ゲノム)と、竜泉(アストラルスポット)だ」


 竜泉──フェルトが僕を召喚するのに用いたっていう、例のアレか。

 確か魔力の源泉だとかなんとか。


「竜泉とは高純度の魔力を噴き出す竜血の源泉。そして特級魔獣と各大陸──七つの世界に点在する竜泉との関係性は極めて密接だ。なにせヤツらはそこから(、、、、)産まれたって話だからな」


「つまり、魔獣が竜血に触れると特級化を促す性質があると?」


「ただ竜血に触れるってだけじゃそうはならねえさ。そもそも魔獣ってのは、魔力濃度の高い地域へ引き寄せられる性質を持ってる。対して巨大な採掘場ってのは軒並み政府や各自治体の行政が抑えて管理してるのもあって、魔獣がコイツに触れるのはそうそうあることじゃねえが、少量漏れ出る湧泉なんてのは割とどこにでもあるからな。そいつに魔獣が触れようがどうにもならねえよ」


 ……採掘場? この世界では元の世界でいう油田みたいに、魔力を資源として採掘してるのだろうか。


「まあ正確に言えば、本当に重要なのは純度の方だ」


「え、純度ですか?」


 どういうことだ? さっきの話的に、重要となるのは量だとばかり。

 少量では意味がないから大量にと、そういう話ではなかったのか。


「少しだけ湧き出るような湧泉には、少量故に土やその他不純物の割合が多いんだ。特級への進化を促すほどの純度には、それこそ竜泉採掘場のような大量の竜血が必要なのさ」


「じゃあ、その採掘場ってとこに魔獣が侵入して、より大規模な魔力に触れることで特級に成ると?」


「それも条件の一つではあるが、しかし魔獣のその全てがどいつもこいつも特級になれるってわけじゃない。特級に至るためにはそれ相応の器が必要不可欠。弱すぎる魔獣は竜泉の魔力純度に耐え切れず崩壊するらしいからな。奇王機関の論述によると、一級に該当する魔獣が特級へ進化するための資格を持つらしい」


 なるほど、双頭狼は一級魔獣だ。

 レリックさんの言う、特級へ進化する条件を果たしているというわけか。


「そしてこの町には、古くから竜泉の採掘場が存在する」


 なんてこった。

 見事なまでに全ての条件が揃ってしまっているじゃないか。


「……しかし妙だな」


「妙って、なにが?」


「考えてもみてくれ。よしんば本当に双頭狼のボス個体が採掘場襲撃を経て特級魔獣へ進化したのなら、きっと町への被害がもっと甚大となったはずだ。特級に成った魔獣が、そのまま大人しく立ち去るとは思えない」


 なるほど、確かにその通りだ。

 フェルトの発言は大いに的を得ている。

 伝承にある特級魔獣、その脅威は災害そのものとされる。

 そんなものが採掘場を襲って町で暴れたとなると、この町はもっととんでもない状態になっているはずだ。


「……そう、そこだけは正直俺もよくわかってないんだ実は」


 フェルトの発言の合理性を認め、同時にその疑問についても同意見を示すレリックさん。

 当然だろう。魔獣が採掘場を襲撃して特級化した後、何もせずに巣へ帰ったというのなら話の筋は通るけど、果たして魔獣がそんなことするだろうか。

 ……否。断じて否だろう。

 この世界で見た魔獣。双頭狼を実際に見て感じた個人的な感想としては、それは絶対にないと思う。

 力を得た獣は、今度こそ欲望のままに人々を襲い、この町なんかあっという間に滅ぼしてしまうだろう。

 だが実際、そうはなっていない。

 そうはなっていないということは、理論上特級魔獣には進化できていないのではないか。


「色々と腑に落ちないのはわかる。だが現実は変わらない。いくら非合理的で理論が破綻してようが、事実特級レベルの魔獣が誕生している、これは変わらない。理論と現実が食い違ったとき、間違ってんのはいつだって理論で、正しいのは間違いなく現実だ」


「…………」


 返す言葉がなかった。

 レリックさんの言う、まさしくその通りだ。

 あれこれ理屈を並び立てて何をどう言おうが、事実そこに脅威があることに変わりはないのだから。


「特級に進化してるしてないは、ぶっちゃけこの際どうでもいい。重要なのは、あの個体がもう俺の部隊のみでは対処ができなくなっちまったってことだ」


 そう言って腰を上げ、立ち上がりながらレリックさんは話を続けた。


「兎に角、アレに対処するためには援軍要請が必要不可欠だ。……ついてはベトラクトの旦那に援軍要請を受け入れて貰えるよう、お前さんからも説得してほしいんだ」


 なるほど。

 どうにもこれが、この件の本題と言うやつらしい。


「それはもちろん構いませんが……別に僕なんかが説得するまでもなく、援軍要請は認めて貰えるんじゃないですかね……?」


 なにせ特級相当の魔獣が町を襲う可能性があるのだ。

 早々に対処しなければ、それこそ町そのものが滅ぼされる可能性だってあるのだから、誰がどう考えても援軍要請が必要だと言うことくらいわかるはずだ。無論、市長であるベトラクト氏がその程度のことを理解出来ないはずがない。


「……いや、どうにも彼は他所からの介入を嫌う節があるからな。今回の任務もそうだが、通常なら10人やそこらで町全体の防衛なんて不可能だ。俺は既に何度も援軍要請を訴えているが、彼は頑なにそれを認めようとしないんだよ……」


 それに関してはずっと、僕も同じことを考えていた。

 こんな広い町全体をたった10人やそこらで守るだなんて、到底不可能ではないのかと。

 町の被害を防ぐためにも戦力増強を図るべきではないかと、ずっと考えていた。

 合理的に考えればわかるはずだ。どうすれば魔獣の対処が容易になるか、どうすれば魔獣の被害を減らせるかを。

 なのに、それを断る理由とは一体なんだ?

 単純に金銭的な問題か、それとも他所の人間に思う所でもあるのだろうか。


「特級相当の魔獣とは言え、今までのことを考えると俺たちだけで対処しろ──なんて言われる可能性も十分にある。だから、お前さんからも彼を説得して欲しいんだ。聖霊使いってのもあってか、どうもお前さんの事は一目置いているみたいだからな。お前さんからの頼みなら、もしかすると要請を受け入れてくれるかもしれない」


「なるほど……そう言うことなら、わかりました」


 断る理由などあるはずもない。

 僕なんかの説得で事態が好転するなら、お安い御用だ。


 こうして、僕はレリックさんと共にベトラクト氏を説得することとなった。

 この時、この瞬間から、異世界に来て初めて経験する大惨事と、怒涛の一日が幕を開けるのだった。


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