第9章 「神々の黄昏」8節:日常の残滓
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「……そうね。皆んな何も捨ててなんていない」
明来の声が、虹色の汚染物質に満ちた空間に凛と響いた。彼女の手にあるデバイスが輝きだし、「慈愛の心」をコードに変換し、尖塔の最上階を侵食する「粘液」を焼き払っていく。
「私が現実の固定を打ち込むわ。その隙に、あいつの『可能性の残骸』を、全部終わらせて!」
「了解よ、明来ちゃん!」
「任せて。私たちの『絆』、あんな化け物に食い破らせはしないわ!」
シュカ(珠花)とネガイ(叶恵)が、重力すら消失し「鱗」が舞い散る虚空を蹴った。ナイが放つ無数の「節足」が、多重音声の絶叫と共に二人を襲う。
珠花が純白の翼を広げ、運命の糸を解き放つ。
「ウェーイク・ゴッデース!我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
その風は、ナイが作り出す偽りの絶望を「忘却」の彼方へと押し流す。
続いて叶恵が、虚無の心臓部へ漆黒の楔を打ち込む。
「ウェーイク・ゴッデース!我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
黒い雷鳴が「多重音声」のノイズを物理的に両断し、ナイの核を露出させた。
『オノレ……人間! 貴様ラノ『愛』ナドトイウ不確定要素ガ、私ノ計算ヲ狂ワセルトイウノカ!』
ナイの本体が、苦悶に歪みながら膨張する。尖塔そのものが巨大な口へと変貌し、全てを飲み込もうとしたその時。
階下の「前線カフェ」では、憂が静かに紅茶を淹れ終えていた。
「あら、ちょっと温度が高すぎたかしら。……バステトちゃん、明来ちゃんたちの分のアイス、冷凍庫から出しておいてくれる?」
「はっ、すでに準備しております、大神様。……お嬢様たちの『日常』への執着、もはや何物も遮ることはできぬようですな」
バステトが窓の外を見上げる。そこには、神話の闇を切り裂く、三つの小さな、けれど決して消えない光が輝いていた。
「ええ。だってあの子たちは、私の自慢の家族たちですもの」
憂の言葉が「確定」の言霊となり、尖塔を包む虚偽の理を粉砕した。明来がデバイスのエンターキーを強く叩く。
「これが、私たちの『日常』の力よ! 消えなさい化物!」
光が虚無を貫き、物語はついにナイの完全消滅を賭けた最終局面へと突入する。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




