第9章 「神々の黄昏」第4節:断絶の空、再会の雷鳴
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
触手の尖塔、第百四十四階層。
そこはもはや建造物の内部ではなかった。空間そのものが巨大な生物の咽喉のように拍動し、壁面からは無数の多重音声が、かつての現実世界で流れていたテレビ番組の残響を呪詛のように垂れ流している。
窓の外に見える佐賀県鹿島市の空は、粘液状の雲が渦を巻き、星々が幾何学的な鱗となって不気味に明滅していた。かつて電柱が立っていた場所には、空に向かって伸びる巨大な節足がうごめき、電波の代わりに「神話層のささやき」がノイズとなって空間を支配している。
「……はぁ、はぁ……。これ、きりがないよ……っ!」
珠花――シュカは、純白の装束を鮮血と粘液で汚しながら、膝をついた。彼女の周囲には、ナイの眷属である「定義なき肉塊」が山をなしている。
「弱音を吐くな、珠花。……いえ、シュカ。ここはまだ、彼の足元に過ぎないわ」
隣で漆黒の雷鳴を纏う叶恵――ネガイが、震える手で拳を握り直す。彼女の背後では、現実の重力が反転し、砕けた瓦礫が上空へと「落下」し続けていた。
その時、空間が歪んだ。
虚空から、現実を裂いて映し出されるスクリーンには、緒妻明来の姿が映しだされていた。明来はSカンパニー特製の防護スーツに身を包み、手には哲人が開発した対神話層デコード・デバイスを握りしめている。
「シュカ! 叶恵さん! 無事ですか!今、どこにいるの?」
「明来ちゃん!? の姿が何故ここに……ここはもう、普通の人間が居ていい場所じゃ……」
珠花の言葉を遮るように、スクリーン上の明来が通信機を叩く。
「お父さん(哲人)が地下のシステムルームで現実の再定義を維持してくれてる! それに……」
明来は空を見上げ、確信に満ちた声で叫んだ。
「天が見ていてくれる。だから、私たちは負けない!」
その言葉に応えるかのように、尖塔の最上階方向から、圧倒的なまでの「虚無」の圧力が吹き下ろした。ナイの意志が、現実を忘却の彼方へと押し流そうとする。
「来るわ……! 最大の、拒絶が!」
ネガイが叫び、シュカが立ち上がる。二人は視線を交わし、同時に神性を解き放った。
珠花が天を仰ぎ、未来を紡ぐ意志を叫ぶ。
「ウェーイク・ゴッデース!我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
白い神風が吹き荒れ、周囲の神話的粘液を霧散させる。
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
叶恵が地を蹴り、過去を断ち切る宿命を叫ぶ。
「ウェーイク・ゴッデース!我、過去から続く宿命をほどくもの!」
漆黒の雷が空間を焼き、逆転した重力を強引に固定する。
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒 of 神雷! 我が名はネガイ!!」
「行くよ、叶恵ちゃん! 私たちの『家』を、日常を取り戻すために!」
「ええ、珠花ちゃん。お姉様の愛したこの世界を、終わらせはしない!」
光と影、二つの神性が交差し、尖塔の最上階へと続く絶望の階段を駆け抜けていく。
遥か遠く、前線カフェのカウンターで静かに茶を淹れる緒妻憂の瞳には、愛する哲人や明来という自身の「家族」たちが奮闘する様子が共に映し出されていた。その刹那、憂の脳裏には、哲人との初めての出逢いを彷彿とさせるときめきの感情が湧き出す。
「懐かしい…。あの時も哲ちゃんは、そうだった…。」
憂の頰には、知らずにに僅かな一筋の涙が流れていた…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




