第9章:「神々の黄昏 」第1節:終焉の幕開け
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
佐賀県鹿島市。かつて「祐徳稲荷」の門前町として栄えたその地は、いまや人類の理解を絶する「神話層」へと完全に上書きされていた。
空は、凝固した血液のような赤黒い雲に覆われ、そこから時折、巨大な昆虫の脚のような「何か」が、現実の膜を破って突き出している。重力は一定ではなく、地面から滲み出した粘液が、物理法則を無視して天へと滴っていた。
「……ひどい、ね。これが、ナイの望んだ世界なの?」
大神珠花——シュカは、純白の装束をはためかせ、浮遊するアスファルトの残骸の上に降り立った。彼女の瞳には、かつての通学路が、肉塊と機械が融合したグロテスクな回廊へと変貌した様が映っている。
「未来なんて、どこにもない。ここにあるのは、終わりのない停滞と、完成された絶望だけよ」
隣に降り立った大神叶恵——ネガイが、漆黒の神雷を指先に纏わせながら吐き捨てる。彼女たちの前方には、街のすべてを吸収して天を貫く「触手の尖塔」が、ドクドクと脈動しながら鎮座していた。
その尖塔の頂点、現実と虚構が渦巻く境界線に、奴はいる。
「行こう、叶恵ちゃん。……ううん、ネガイ。私たちで、この歪んだ神話を終わらせるんだ」
「ええ。私たちの『宿命』、ここで全部解いてあげるわ。……行くわよ、シュカ!」
二人は同時に跳躍した。
背後で、かつて「日常」と呼ばれた断片が、粉々に砕けて消えていく。
その様子を、異界化した鹿島市の片隅、唯一「正常」な空間を保っている小さなカフェの窓から、緒妻憂は静かに見つめていた。
「バステトちゃん、お茶の代わりを用意してくれるかしら。……とびきり熱くて、目が覚めるようなやつを」
憂は、一般人としての穏やかな微笑みを崩さぬまま、傍らに控える末美に声をかけた。その手には、書きかけの「家計簿」ではなく、銀河の配置が刻々と変化する「星図」が握られている。
「かしこまりました、大神様。……シュカ様たちが、尖塔の第一結界を突破いたしました」
バステトの報告に、憂は満足げに頷く。
「そう。あの子たちが未来を紡ぐか、過去に呑まれるか……。ナイ、あなたの用意した『筋書き』、私が少しだけ添削してあげてもいいかしら?」
憂の瞳の奥で、全宇宙を統べる絶対的な神性が一瞬だけ瞬いた。
現実が軋む。神々の黄昏の第一撃が、いま放たれようとしていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




