第8章「神話の胎動」 8節:再編される世界、残された鼓動
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「核」を貫いた純白と漆黒の光が、尖塔の最上階から全方位へと爆散した。
魚鱗が空を覆い、多重音声が狂ったように響いていた異界の空が、一瞬だけ真っ白な虚無に包まれる。
肉塊と鉄塔が歪に混ざり合っていた「触手の尖塔」は、その存在理由を失い、泥のような粘液へと還りながら崩れ落ちていく。重力の法則が戻り、天へと昇っていた瓦礫が、降り注ぐ黒い雨となって街に叩きつけられた。
「終わった……の?」
シュカは変身を解き、瓦礫の山に横たわった。隣には同じく呼吸を乱した叶恵が、傷だらけの手で珠花の裾を握っている。
「ええ……。少なくとも、あの『貌』は消えたわ」
だが、二人の周囲に広がる光景は、もはや元の鹿島市ではなかった。
アスファルトからは節足動物の肢のような突起が突き出し、民家の壁は鼓動する粘膜に覆われたまま。KOVID-666がもたらした「神話による上書き」は、核を失ってもなお、現実の深層に根を張っていた。
その時、雨に濡れる街の片隅で、澄んだ鈴の音が一度だけ鳴り響いた。
黄金の波紋が街を駆け抜け、不浄な肉塊を「ただの瓦礫」へと、多重音声の残響を「ただの雨音」へと、人々の認知を強制的に翻訳し直していく。
「お帰りなさい、二人とも。よく頑張ったわ」
通信機から、バステトの声が流れる。その背景からは、テレビのニュース番組の音と、スヤスヤと眠る明来達の寝息が聞こえてきた。
「バステトさん……! 私たち、なんとか……」
「ええ、わかっているわ。すぐに迎えを向かわせるから、そこで少し休んでいなさい。」
バステトは通話を切ると、窓の外、まだ異形の名残を留める歪んだ月を見上げる憂の姿を見上げた。
彼女の足元の影から這い出してきたバステトが、跪いて頭を垂れている。
「大神様。ナイの核は散逸しましたが、概念の『種』までは消し去れておりません。奴は必ず、より深い神話層から這い上がってきます」
「構わないわ、バステトちゃん。……一度にあらゆる毒を抜けば、この世界(容れ物)が保たない。少しずつ、あの子たちの成長に合わせて『調律』していけばいいのよ」
憂の瞳が、一瞬だけ冷徹な銀河の色に染まる。
「次は、あの子たちの本当の『神話』が始まるわ」
崩壊した尖塔の跡地。
そこには、ナイが残した「無数の貌」の破片が、新たな悪夢を宿す卵のように、静かに脈打ち続けていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




