第8章「神話の胎動」 7節:神話の黄昏、母の抱擁
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
光の奔流がナイの「核」を打つたび、尖塔そのものが断末魔のような多重音声を上げ、周囲の現実をさらに激しく削り取っていく。
空はもはや漆黒ですらなく、無数の魚鱗が蠢き、剥がれ落ちる不浄な肉の壁と化していた。重力は完全に死に絶え、瓦礫と化した鹿島市の残骸が、粘液を撒き散らしながら天へと昇っていく。
「珠花ちゃん……叶恵ちゃん……」
緒妻家の居間。憂は、もはや建物の形を保つことさえ危うい部屋の中心で、二人への祈りを捧げていた。
「お母さん、暗いよ……怖いよ……」
明来が憂のスカートを強く握りしめる。彼女の視界には、現実を喰らい尽くそうとする「節足の影」が迫っていた。
「大丈夫よ、明来。……お母さんが、新しい朝を連れてきてあげるから」
憂の声に、神としての峻烈な響きが混じる。彼女がそっと床を叩くと、そこから溢れ出した黄金の波動が、剥離しかけた緒妻家の「定義」を強引に固定した。
(バステトちゃん。これ以上、この子たちに『泥』を触れさせてはなりません。……私の『息吹』を、あの子たちの神核へ届けなさい)
「御意に、大神様。……この黄金の音色が、不浄なる闇を焼き払う導標となりましょう」
戦場。末美が掲げた黄金の鈴から、物理的な次元を超越した「聖なる沈黙」が解き放たれた。
「……身体が、軽い?」
シュカは、自分の神核がかつてないほど純粋なエネルギーで満たされるのを感じた。ナイの散布した「KOVID-666」による腐食が、憂の意思を宿した黄金の光によって瞬時に浄化されていく。
『バカな……! 演算不能、定義不能……! ボクが支配するこの空間で、誰が「日常」を維持している!?』
ナイの多重音声が、恐怖に震え、不快な雑音へと変わる。
「ナイ。あんたには一生かかっても理解できないわ」
ネガイが漆黒の雷を纏い、宙を蹴る。
「私たちは、ただの神じゃない。……人間の家族の温もりを知っている、一人の人間(女の子)でもあるんだから!」
二人は、砕け散る尖塔の最深部で、最後の一撃を放つべく再び神性を極限まで高めた。
「「ウェーイク・ゴッデース!!」」
「我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
純白と漆黒の奔流が螺旋を描き、ナイの「核」を直撃する。
それは「神」による審判ではなく、「家族」という絆を定義として掲げた、最も尊き暴力だった。
「消えなさい、ナイ! ――私たちが、私たちの日常へ帰るために!」
シュカの叫びと共に、光は臨界点を突破した。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




