第8章「神話の胎動」 6節:無数の貌、不変の絆
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
霧散した闇の向こう側に鎮座していたのは、物質的な形状を持たない「矛盾」そのものだった。
それはある時は死んだはずの知人の顔、ある時は数多の節足動物が蠢く塊、そしてまたある時は、ただの黒い空洞へと刻一刻とその貌を変え続けている。
『無駄だよ、シュカ。ネガイ。ボクはこの世界の「余白」に書き込まれた落書きだ。君たちがボクを消せば、この世界の歴史そのものに穴が空くことになる』
多重音声が脳髄を直接かき混ぜるように響く。ナイの周囲では、物理法則が完全に腐食し、放たれたシュカの神風が「粘液」に、ネガイの神雷が「多重に重なり合う悲鳴」へと変換されて霧散した。
「定義を書き換えられている……!? 私たちの攻撃が、届く前に消されてる……っ」
シュカが膝を突く。視界が二重、三重にブレ始め、自分が「大神珠花」であるという確信さえも、ナイの存在感に侵食されようとしていた。
その頃、緒妻家の居間では、憂が静かに紅茶のカップをソーサーに置いた。
「お母さん、お外が……真っ暗になっちゃったよ」
明来が窓の外を指差す。そこには星もなく、月もなく、ただナイの影が浸食した「虚無」が広がっていた。
「大丈夫よ、明来。少しだけ、お母さんがお掃除するからね」
憂は優しく微笑むと、明来には見えない速度で、空中に指を走らせた。
それは魔法ではない。宇宙の「原初の楽譜」を正しい音程へと調律し直す、創造主としての理の行使。
(バステトちゃん。あの子たちの足元に、『意味』の錨を下ろしなさい。ナイの戯言を、ただの雑音へと堕とすのよ)
「畏まりました、大神様。……無知なる混沌よ、不変の理の前に跪け」
戦場。末美が影の中から解き放った黄金の波動が、シュカとネガイの周囲にだけ、揺るぎない「現実の座標」を再定義した。
「……耳鳴りが、止まった?」
ネガイがいち早く顔を上げる。ナイの嘲笑は、今やただの不快な風の音にしか聞こえない。
「シュカ、聞こえる? 憂姉さんたちの……私たちの日常の音が」
「うん……。ご飯を炊く匂い、明来ちゃんの笑い声、そして、憂姉さんが呼んでくれる私の名前……!」
シュカの瞳に、銀河の煌めきを凝縮したような純白の闘志が再点火した。
二人の女神は、互いの手を強く握りしめる。
「「ウェーイク・ゴッデース!!」」
「我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
混ざり合うことのないはずの純白と漆黒が、手を取り合うことで「原初の混沌」をも凌駕する「絶対的な光」へと昇華される。
二人の叫びが尖塔を揺らし、ナイの「貌」を一枚ずつ剥ぎ取っていった。
「これが私たちの、譲れない日常だ!!」
光の奔流が、ついにナイの「核」へと肉薄する。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




