第8章「神話の胎動」 3節:絶望の回廊、鏡像の戦い
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「触手の尖塔」の内部は、生物の喉奥を歩いているかのような、湿り気を帯びた神話の迷宮だった。壁面は絶えず脈打ち、そこからはかつてシュカたちが打ち倒したはずの眷属たちの「残骸」が、壁から半分突き出した状態で二人を睨みつけている。
「……気持ち悪い。ここ、時間が止まってるみたい」
シュカが純白の神風を身に纏い、壁から伸びる無数の指をなぎ払う。
「いいえシュカ、止まっているんじゃないわ。ナイが、私たちの戦いの記録を『素材』にして、この空間を編み上げているのよ」
ネガイが漆黒の雷を凝縮させ、前方の闇を射抜く。そこには、かつて二人が苦戦した単眼の触手の怪物が、幾重にも融合し、巨大な鏡合わせの姿で待ち構えていた。
その頃、緒妻家の聖域では、憂が明来に温かなココアを差し出していた。
「はい、明来。これを飲んで、ゆっくり深呼吸して」
「……ありがとう、お母さん。……ねえ、お空で戦ってる人たち、苦しくないかな?」
明来の純粋な問いに、憂は窓の外、絶望に染まった空を一瞥した。
「大丈夫。あの人達は、自分たちが信じる『明日』のために戦っているから。それに……」
憂の瞳に、一瞬だけ神としての絶対的な意志が宿る。
(……私がついているもの。ナイ、あなたの思い通りにはさせないわ)
(バステトちゃん。尖塔の第3層……あの子たちの『恐怖』が実体化しようとしている。少しだけ、彼女たちの『記憶』の純度を上げなさい)
「承知いたしました、大神様。……黄金の加護を、彼女たちの魂の奥底へ」
バステトが影の中から囁き、祈りの波動を放つ。
戦場では、シュカとネガイの前に「自分たちの姿をした闇」が現出しようとしていた。だが、バステトの介入により、その闇が形を成す前に、シュカの脳裏に憂と過ごした日常の光景が鮮烈に蘇った。
「……あんな偽物に、私たちの居場所を渡さない!」
シュカの声が、神話の回廊を震わせる。
「ウェーイク・ゴッデース!我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「ウェーイク・ゴッデース!我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
純白と漆黒、相反する神気が螺旋を描き、鏡像の闇を粉砕する。
「行くよ、ネガイ! この先の『核』に、ナイがいる!」
「ええ、一気に決めるわよ!」
二人の女神は、より深く、神話の深淵へと足を踏み入れた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




