第8章「神話の胎動」 2節:虚空の捕食者
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
鹿島市の中心部、天を突く「触手の尖塔」の周囲では、物理法則そのものが悲鳴を上げていた。
降り注ぐ黒い雪は地面に触れる前に羽化し、無数の小さな「翅を持つ口」となって大気を食い荒らしている。
「くっ……、空そのものが噛みついてくるみたい!」
シュカが純白の神風を渦巻かせ、周囲の「羽化する雪」を吹き飛ばす。だが、神風によって浄化された空間は、瞬時に尖塔から溢れ出すどす黒い粘液によって再汚染されていった。
「シュカ、下を見て! 街の境界が溶け始めているわ!」
ネガイの警告通り、地上ではアスファルトが沸騰し、そこから巨大な「魚鱗」に覆われた不定形の腕が何本も伸び、逃げ惑う市民たちの「記憶」を物理的な糸として引きずり出していた。
その惨状を、緒妻家の二階から見つめる憂の瞳には、怒りでも悲しみでもない、深い「静寂」が宿っていた。
「……少し、悪趣味が過ぎるわね。ナイ」
「お母さん、お外が……お外が怖いよ」
明来が憂の腰に縋りつき、顔を伏せる。憂は明来の震える背中を優しくさすりながら、その意識を「安らぎの定義」へと僅かに誘導した。
「大丈夫よ、明来。これは全部、悪い夢。お母さんが、すぐに窓を閉めてあげるからね」
憂が静かに左手をかざすと、緒妻家を包む黄金の結界がより強固な「殻」となり、外部の冒涜的な音を一切遮断した。
(バステトちゃん。あの子たちの足元……影の中に潜む『捕食者』を排除しなさい。今の彼女たちには、まだあの『闇』は早すぎるわ)
「御意に、大神様。……影に潜む不浄、このバステトが噛み砕きましょう」
戦場。シュカとネガイの影が不自然に伸び、そこから「無数の人間の顔が浮かぶ巨大な顎」が飛び出そうとした瞬間――。
黄金の閃光が影を貫き、その顎を根元から消滅させた。
「えっ……? 今、誰かが助けてくれた?」
シュカが驚きに目を見開く。
「分からない……。でも、感じるわ。この温かくて、それでいて絶対的な『理』の力を。……行くわよ、シュカ! 誰かが道を作ってくれているうちに!」
「うん!」
二人の女神は、決意も新たに尖塔の深部へと突入する。
「ウェーイク・ゴッデース!我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「ウェーイク・ゴッデース!我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
光と闇の神気が重なり合い、尖塔の表面を覆う「節足の壁」を粉砕していく。
だが、その奥で待ち構えていたのは、かつて倒したはずの「異形」たちが、より高度に合成された姿で蠢く、絶望の回廊だった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




