第7章「決戦への序曲」 8節:絶望の楔、希望の種
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
鹿島市の中心部にそびえ立つ、肉塊と鉄塔が融合したかのような異形の尖塔。
そこから発せられる「KOVID-666」の波動は、もはや物理的な距離を無視して、県境さえも神話の色彩で塗り替えようとしていた。
「……お母さん。珠花ちゃんたちは、大丈夫なのかな」
二階の寝室で、明来が不安げに憂を見上げた。窓の外では、かつて登校路だった道が、無数の節足が蠢く不気味な回廊へと変貌している。
「大丈夫よ、明来。あの子たちは、私たちが思っているよりもずっと強いから」
憂は明来の震える手を優しく包み込み、母親としての温かな微笑みを絶やさない。だが、その視線の先では、シュカとネガイが尖塔から放たれた上位眷属の軍勢に包囲され、苦戦を強いられていた。
(さあ、バステトちゃん。仕上げの準備を。この街を『再定義』するための、最後の舞台装置を起動しなさい)
「承知いたしました……大神様」
バステトは影の中で、神威を纏った黄金の祭器を高く掲げた。
空を舞うシュカとネガイの眼下で、さらなる絶望が口を開く。
「っ……! 尖塔の周りに、また『門』が……!」
シュカが純白の神風を振るい、迫りくる触手の群れをなぎ払う。
「どれだけ倒しても、街そのものがナイの意思に従っているわ! このままじゃ、私たちの神性そのものが食いつぶされる……!」
ネガイの漆黒の神雷が、異形の鱗を弾くたびに、その光を弱めていく。
街は沈黙し、ただ異世界の鼓動だけが響く。
ナイが狙っているのは、単なる街の破壊ではない。この鹿島市という場所を基点に、現実世界すべての「定義」を書き換え、全人類を「生ける悪夢」へと変貌させることにある。
「逃がさないよ、ナイ……! 私たちの未来は、あんたの台本通りにはさせない!」
シュカは涙を拭い、再び高く空へと舞い上がった。
「ウェーイク・ゴッデース!我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「ウェーイク・ゴッデース!我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
限界を超えた神光が、異界化した鹿島の空を切り裂く。
その光の中に、かつての日常の記憶――憂姉さんの作る料理の匂いや、家族の笑い声が、微かな「希望の種」として混ざり合っていた。
それは、ナイが決して計算に入れることのできない、不確定な未来への祈りだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




