第7章「決戦への序曲」 5節:門の胎動…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
緒妻家の庭先に、粘りつくような黒い霧が立ち込める。
「KOVID-666」に侵食された空間は、もはや物理法則が通じない異界へと変貌しつつあった。
「ギ、ギィ……ギョォォォォオオオ!」
庭を埋め尽くす怪物の群れ。その巨大な一つの眼球が、二階の窓に立つ憂を狙い定めるように不気味に発光する。触手の一振りが生け垣を容易く粉砕し、現実のデータを消去するように空間を削り取っていく。
「絶対に、指一本触れさせないから!」
シュカの叫びと共に、純白の風が渦を巻いた。彼女の背後では、ネガイが漆黒の雷を指先に集め、庭園を包囲する異形たちを焼き払おうとしている。
「ネガイ、みんなが狙われてる。守って!」
「わかってるわ、シュカ。この程度のゴミ、一瞬で塵にしてあげる!」
その時、空間が大きく歪んだ。
空から降り注ぐ黒い雪が一点に集まり、庭の中央に巨大な「門」のような亀裂が生じる。そこから這い出してきたのは、これまでとは比較にならないほど巨大で、冒涜的な姿をした影だった。
それは、魚類のような鱗に覆われた不定形の肉体。無数の節足が蠢き、そこからドロドロとした腐敗臭を放つ粘液が溢れ出している。
「……ナイの直系。神話層の門番ね」
末美が、憂を守るように窓辺に控えながら、鋭い視線でその異形を睨みつける。
二階の室内では、明来たちが身を寄せ合い、震えていた。
「パパ……、パパは?」
「大丈夫よ、明来ちゃん。哲ちゃんは今、地下のシステムルームでこの『ノイズ』を止めるために戦っているわ」
憂は子供たちの肩を抱き寄せ、穏やかな声で語りかける。その気持ちは、窓の外で奮闘するシュカとネガイに注がれていた。
(さあ、もっと強く。あなたたちの絆が、この世界の『新しい定義』になるのよ)
憂が密かに結界を強化すると、シュカの身体を包む光が一層激しさを増した。
「ウェーイク・ゴッデース!我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「ウェーイク・ゴッデース!我、過去から続く宿命をほどくもの!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
光と闇の旋律が重なり合い、緒妻家を飲み込もうとしていた異形の軍勢へと解き放たれる。
しかし、門の向こう側からは、さらなる「冒涜的な存在」の拍動が響き始めていた。
パンデミックは、今まさに極大期を迎えようとしていた。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




