第7章「決戦への序曲」 2節:黒い雪の街
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「――雪?」
前線カフェを飛び出した珠花が空を見上げ、呆然と呟いた。
夕焼けに染まっていたはずの鹿島の空が、いつの間にか不自然なほど濃い紫色の雲に覆われている。そして、その雲からは、真冬でもないのに「雪」が舞い落ちていた。
だが、その雪は白くはない。煤のような、不吉な「漆黒の雪」だった。
「これ、雪じゃない……」
隣に並んだ叶恵が、その一粒を指先で受け止める。黒い結晶は彼女の肌に触れた瞬間、ジリリと不快な音を立てて消えた。
「デジタル・デブリ……。ナイが現実世界のデータを直接書き換え始めているんだわ」
「そんな……。憂姉さん、危ないよ! 早く中に!」
珠花が振り返ると、店の入り口で憂が心配そうに空を仰いでいた。
「珠花ちゃん、叶恵ちゃん……。あの黒いもの、何かしら? なんだか嫌な予感がするわね」
憂は「何も知らない一般人」を完璧に演じながらも、背後に控える末美に鋭い視線で無言の圧をかけた。
(末美ちゃん、あの子たちのサポートを。日常を壊させないで)
バステトは静かに頭を下げ、珠花の前へ進み出た。
「珠花さん、叶恵さん! これはナイの眷属による現実侵食です。早く安全な場所へ……いえ、今はこの街そのものが戦場になろうとしています!」
その言葉を裏付けるように、周囲の景色がノイズを帯びて歪み始めた。
歩道のガードレールが蛇のようにのたうち回り、街灯が生き物のように首をもたげる。黒い雪が積もった場所から、形をなさない影のような怪物――「蕃神」の端くれたちが這い出してきた。
「珠花、やるわよ。ここは私たちが食い止めないと」
「……うん、わかった。憂姉さん、哲人さんや明来ちゃんたちのことは、私たちが絶対に守るから!」
珠花は胸元の髪飾りに手をかけた。叶恵もまた、首元のチョーカーを握りしめる。
二人の周囲に、神性なエネルギーが渦巻き、吹き荒れる黒い雪を弾き飛ばした。
「ウェーイク・ゴッデース! 我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
珠花の身体が純白の光に包まれる。
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「ウェーイク・ゴッデース! 我、過去から続く宿命をほどくもの!」
隣で叶恵が、漆黒の雷鳴と共にその姿を変える。
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の神雷! 我が名はネガイ!!」
光と闇、対極の力を纏った二人の女神が、黒い雪の降り積もる鹿島の街に降り立つ。
「ネガイ、行くよ!」
「ええ、シュカ。一気に初期化してあげるわ!」
シュカの放つ清烈な風が黒い雪を浄化し、ネガイの漆黒の雷が迫りくる影を焼き払う。
しかし、街の至る所で上がる悲鳴とノイズは、これがまだ「始まり」に過ぎないことを物語っていた。
建物の影から、その様子を冷ややかに見つめる憂の瞳には、慈愛とは異なる、世界の真理を見通す神としての冷徹な光が宿っていた。
「……さあ、見せてちょうだい。あなたたちが、この宿命をどう『再定義』するのかを」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




