第6章「輪廻の境界」8節:漆黒の業火と純白の風
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「――お姉ちゃんは、私の自慢のお姉ちゃんだよ!」
シュカの叫びが、淀んだ闇を物理的に押し返した。 蹲っていた叶恵の耳に届いたのは、かつて「女神」として聞いた数多の祈りよりも、ずっと稚拙で、けれど何よりも重い「信頼」という名の言霊だった。
「……珠花。あなたは本当に……強くなったのね」
叶恵がゆっくりと顔を上げる。その瞳からは迷いが消え、代わりに冷徹な「破壊者」の光が宿る。たとえ自分の過去がどれほど濁っていようとも、目の前の妹が信じる「姉」であり続ける。その決意が、彼女の内に眠る破壊の衝動を、守るための力へと変質させた。
「てちち、バステト! 明来ちゃんをお願い!」
「(おう、任せな! 珠花、派手に行け!)」
「ふん、貸しにしておくわよ、シュカ」
背後の安全を確認した叶恵が、闇の奔流へと一歩踏み出す。その手には、虚空から引き抜かれた漆黒のチョーカーが握られていた。
「ウェーイク・ゴッデース! 我、過去から続く宿命をほどくもの!」
カフェの店内に、漆黒の炎が渦巻く。それは周囲の温度を上げるのではなく、対象の「存在理由」そのものを焼き切る絶対の滅却。
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の業火! ネガイ!」
漆黒のドレスを纏ったネガイが、シュカの隣に並び立つ。 純白の風と漆黒の炎。相反する二つの力が共鳴し、カフェを包囲していた「白き手」たちが恐怖に慄くように震え上がった。
「行くわよ、珠花。……私たちの家を汚す影は、一欠片も残さない」
「うん、お姉ちゃん! 一緒に!」
シュカが翼を広げ、上空へ舞い上がる。 カフェの天井は既に「概念」として崩壊しており、そこには夜空ではなく、多良岳から溢れ出した神話層の濁流が渦巻いていた。
「忘却の旋風――シン・フェイズ!」
シュカが放つ純白の風が、影たちの「形」を初期化し、無力な粒子へと変えていく。そこへ、ネガイが地を駆けて漆黒の炎を叩き込んだ。
「滅却の業火――ブラスト・因果!」
風が影を暴き、炎がその根源を焼き尽くす。
二人の完璧な連携の前に、無数に思えた影たちは次々と霧散していった。しかし、窓の外、街の深淵からは、依然としてあの「不吉な鐘」の音が響き続けている。
「(ちっ、キリがねえ! 鐘の音を止めねえ限り、街の『記憶』がどんどん影に変換されてやがるぞ!)」
てちちの叫びと同時に、憂が静かに立ち上がった。 彼女は崩れた壁の向こう、闇に沈む多良岳の方角を指差す。
「……鐘の主が、私たちを『正門』で待っているわ」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




