第6章「輪廻の境界」7節:暗闇の連鎖
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
消えた照明、窓を覆い尽くす無数の「白き手」。前線カフェの店内は、一瞬にして現世から切り離された「密室の異界」へと成り果てた。
「……明来ちゃん、私の後ろに!」
珠花は震える手で明来を庇い、カウンターの影に身を潜めた。
闇の中で、ひたひたと床を叩く水の音が響く。それは雨音ではなく、かつてこの土地で「忘れ去られた者たち」の涙が形を成したかのような、重く湿った音だった。
「(珠花、来るぞ! こいつら、建物の『概念』を外側から食い破ってやがる!)」
てちちの警告と同時に、カフェの壁が泥のように崩れ始めた。
崩落した隙間から、顔のない影たちが這い出してくる。それらはかつて叶恵が「歌の女神」だった頃に救えなかった、あるいは切り捨てざるを得なかった、古き時代の「信仰の残滓」だった。
「……やめて。来ないで……」
叶恵が頭を抱えて蹲る。かつて自分が女神として、人々の願いを歌で叶え、その代償として消し去ってきた負の因果。それが、今の「破壊者ネガイ」としての彼女を、過去の呪縛として縛り付けている。
「……そんなところで震えていていいのか? このままでは、あなたが大切にしているその小さな『日常』も、あなたの罪と一緒に泥に沈んでしまうぞ」
暗闇の中でも猫神であるバステトは叶恵のいる場所に素早く移動し、叶恵に他の者には聞こえない位の声で、そう囁いた。彼女の金色に光る瞳だけが目の前の惨状をまるで全て把握しているかの様に…。
「……バステト……。あなたは、この事を……!」
「私はただ、真実を知っていて、それを貴女に伝えただけ。……さあ、ネガイ。あなたたちの『力』は何のためにあるのかしら? 過去に怯えるため? それとも、今を刻むため?」
叶恵が珠花の前に立ち上がった。既に気を失った明来の手を握りしめ、自分に言い聞かせるように叫ぶ。
「……お姉ちゃん、立って! ……お姉ちゃんは、私の自慢のお姉ちゃんだよ!」
珠花の胸の奥で、純白のプリズムが激しく発光した。
その光は泥を弾き、カフェの店内に神話層の光を強制的に引き込む。
「ウェーイク・ゴッデー ス! 我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
純白の粒子が舞い、珠花は戦乙女シュカへと覚醒する。光の翼が広がり、闇に包まれた店内を隅々まで照らし出した。
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
シュカが風を放つと、這い寄る影の一部が「意味」を失い霧散していく。しかし、影の供給源である窓の外の闇は、より一層深く、叶恵を飲み込もうと波打っていた。
「……お姉ちゃん、お願い。一緒に戦おう!」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




