第6章「輪廻の境界」4節:滅却の炎
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「ウェーイク・ゴッデース! 我、過去から続く宿命をほどくもの!」
漆黒の業火が霧を焼き払い、戦場に凛とした声が響く。現れたのは、大神叶恵が変身した姿――破壊と滅却を司る戦乙女、ネガイだった。彼女の纏う漆黒の炎は、周囲を漂う湿った霧を瞬時に蒸発させていく。
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の業火! ネガイ!」
ネガイは自分の拳から、漆黒の剣を作り出して、それを地面に突き立てた。衝撃波が走り、明来を捕らえていた「白き手」が悲鳴のような音を立てて弾け飛ぶ。
「……お姉ちゃん! 助かったよ!」
「お礼は後でいいわ、珠花。……こいつら、ただの化け物じゃない。この土地に染み付いた『忘れられたくない』という執念が形を成している……。デジタルな計算で動いていたナイとは、根本的に質が違うわ」
ネガイの指摘通り、霧の中から再び「手」が這い出し、先ほどよりも巨大な鳥居の形を成していく。それは明来を依代として、この現世に「過去の怨念」を定着させようとする境界の門だった。
「明来ちゃんが、どんどん門の中に引き込まれて……! 忘却の風でも、全部は消しきれない……!」
シュカが焦燥に駆られる中、安全圏からそれを見つめる憂は、和傘を回しながら穏やかに呟いた。
「ふふ、そうね。執着は、消そうとすればするほど強く絡みつくものだわ。……でも、絡まった糸を解くのがシュカ、その糸自体を『なかったこと』にするのが、ネガイの真骨頂よね?」
憂の言葉に呼応するように、シュカの瞳に新たな覚悟が宿る。 敵を消すのではない。敵を繋ぎ止めている「未練という名の定義」そのものを、今の自分の権能で上書きするのだ。
「お姉ちゃん……私が道を『創造』するから、お姉ちゃんがその先の執着を『滅却』して!」
「分かったわ。……行くわよ、珠花!」
シュカが両手を広げ、純白の旋風を巻き起こす。それは単なる風ではなく、敵が依って立つ「神話的な意味」を初期化する神の息吹。
「……忘却せよ! 過ぎ去りし日の、濁りし因果を!」
シュカの風が鳥居を包み込み、その実体感を奪う。その刹那、ネガイが漆黒の炎を纏って高く跳躍した。
「そこね……! 滅・却・せ・よ・! 全ての未練ごと、焼き尽くしてあげるわ!」
黒き炎の一閃が、定義を失いかけた鳥居を両断する。 凄まじい絶叫と共に霧が晴れ、校門前には夕焼け空と、気を失ったままの明来が残された。
「……終わった、のかな?」
シュカが肩で息をしながら呟く。だが、てちち(ショロトル)は依然として多良岳の方向を睨みつけたままだった。
「……いや、今のはただの挨拶だ。街の因果の淀みは、まだ一ミリも減っちゃいねえ」
その言葉を裏付けるように、遠くの山嶺から、不吉な鐘の音が一度だけ、空を震わせて響き渡った。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




