閑話:猫神、前線カフェでエプロンを纏う♪
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
それは、珠花が自らの宿命を自覚し、放課後の「前線カフェ」に通い始めて間もない頃のこと。
「……はぁ? いま、何と仰いましたか、大神様」
閉店後の薄暗い店内で、バステト――エジプトの苛烈なる猫神は、耳を疑った。
目の前で優雅にハーブティーを啜る緒妻憂は、事も無げに微笑んで繰り返した。
「だから、バステトちゃん。あなたも明日から、この『前線カフェ』でスタッフとして働いてほしいの」
「お、お言葉ですが大神様! 私はあくまで、あの子……シュカとネガイに試練を与え、導くための協力者。このような人間の真似事など――」
「あら、バステトちゃん。珠花ちゃんが毎日ここに来るなら、一番近くで『見守る』のが最善だと思わない?」
憂の瞳が、僅かに細められる。それは規格外な女神としての威厳と、悪戯好きな少女のような光を同時に宿していた。
「それに、雫店長一人じゃ忙しそうだし。あの子たち(眷属のスタッフ)は珠花ちゃんを甘やかしすぎるでしょう? あなたみたいな『厳しい視点』を持った子が、店内に一人くらいいてもいいと思うのよね」
「それは……確かに、左様でございますが……」
バステトは言い淀んだ。憂の提案は、表向きは合理的だが、裏には確実に「面白がっている」意図がある。
「決まりね。はい、これ。あなたの制服よ」
憂が取り出したのは、レースのついた可愛らしい巫女装束と、……なぜか猫耳のカチューシャだった。
「…………大神様。私は本物の猫の神でございます。カチューシャなど、概念の重複では?」
「いいのよ、末美ちゃん。人間界では『あざとさ』が重要なの。珠花ちゃんの前では、ちょっとドジだけど一生懸命な店員さんを演じてちょうだい」
翌日。
「わぁ、バステトさん! 今日からここで働くことになったんですか?」
店を訪れた珠花の弾んだ声に、バステト――もといは、引きつった笑みを浮かべた。
「ええ……。オーナーの憂姉……さんに、拾っていただいたご恩をお返ししたく……」
内心で(大神様に対して『拾っていただいた』などと不敬な!)と戦慄しながらも、彼女は震える手でメニューを差し出した。
「バステトさん、カチューシャ似合ってる! 本物の猫さんみたい!」
「……光栄です、珠花さん(殺す……この屈辱、ナイを八裂きにしても晴れぬ……!)」
その背後で、憂がクスクスと楽しそうに笑っているのを、バステトは見逃さなかった。
さらに追い打ちをかけるように、足元では黒いチワワ(ショロトル)が「くぅん」と、哀れみを含んだような声で鳴いている。
「てちち……貴様、後で覚えておれよ……」
「珠花さん! ただいま、最高に美味しいカフェラテを淹れて参ります!」
こうして、エジプトの女神は「前線カフェ」の看板娘(?)としての第一歩を踏み出した。
それは世界の命運を握る大神様による、最高に贅沢で、最高に質の悪い「暇つぶし」の結果であった。
「……ふふ。頑張ってね、バステトちゃん」
憂の優しい独り言が、焙煎の香りに溶けて消えた。
(閑話:猫神、前線カフェでエプロンを纏う♪-完-)
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




