第5章「仮想の楽園」9節:校舎に響くノイズ
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
神社のグリッドを吹き飛ばした翌朝、珠花が目にしたのは、もはや「日常」とは呼べない光景だった。
中学校の校舎全体が、巨大な半透明のドーム
――デジタル・ノイズの障壁に覆われていたのだ。登校した生徒たちは、吸い込まれるようにその中へ消えていく。彼らの表情には生気がなく、ただ「楽園」への渇望だけが瞳に宿っていた。
「……あはは。珠花、見てよ。学校が、あんなに綺麗に光ってる」
隣を歩く明来の体さえ、輪郭がデジタル・ノイズで滲み始めている。 彼女がドームに触れようとした瞬間、珠花の背後から漆黒の衝撃波が走り、障壁を一時的に弾き飛ばした。
「……遅かったわね。ナイの『再定義』は、もう学校のシステムそのものを乗っ取っているわ」
そこに立っていたのは、Sカンパニーの制服を脱ぎ捨て、すでに「破壊者」の神気を纏った叶恵だった。彼女の傍らには、黄金の瞳を爛々と輝かせたバステトが控えている。
「お姉ちゃん! 明来ちゃんが……みんなが!」
「分かっているわ。……てちち、お嬢さんを支えなさい。ここからは一歩でも気を抜けば、魂をデータとして吸い出されるわよ」
てちち(ショロトル)が珠花の前に立ち、唸り声を上げる。
校舎の屋上を見上げれば、そこにはナイが立っていた。彼は空中に無数の二次元コードを浮かべ、街全体の「意味」を書き換え続けている。
「さあ、最後の一幕だ。不完全な肉体を捨て、永遠の論理へと昇華しよう。……邪魔をさせないよ、創造者」
ナイが指を鳴らすと、ドームから黒い情報の蔦が溢れ出し、校庭を埋め尽くした。
「……あらあら、少し騒がしすぎるわね。哲ちゃん、今日は学校がお休みになるかもしれないわ」
騒乱の渦中、校門の脇にあるベンチに、緒妻憂が座っていた。彼女は緒妻家から持ち込んだであろうお気に入りのティーセットを広げ、ノイズの嵐の中でも一切の乱れを見せずに微笑んでいる。
「見せてちょうだい。白と黒、相反する力が混ざり合った時に生まれる、最高に面白い『続き』を」
珠花と叶恵の魂が、かつてないほどに強く共鳴を始める。
「……行くよ、お姉ちゃん! 私たちの場所を、取り戻すんだ!」
「ええ……。すべてを焼き切り、そして新しく描き直そう!」
二人は同時に、髪飾りと漆黒のチョーカーに手をかけた。
「ウェーイク・ゴッデー ス! 我、未・来・へと続く運・命・を紡ぐもの!」
「ウェーイク・ゴッデース! 我、過去から続く宿命をほどくもの!」
純白の暴風と、漆黒の業火が螺旋を描き、天を突く光の柱となった。
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の業火! ネガイ!」
並び立つ二人の神気が、学校を覆う偽りのドームを内側から亀裂させていく。 シュカの「忘却」がナイの付与した偽りの意味を消し去り、ネガイの「滅却」がその残滓を焼き払う。
「……面白い! だが、因果の清算はまだ終わっていない。……楽園の深淵へ、君たちを招待しよう!」
ナイの叫びと共に、校舎の地面が大きく口を開け、シュカとネガイを情報の渦へと引きずり込んでいった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




