第5章「仮想の楽園」6節:共鳴する宿命
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
白き風がノイズを払い、黒き焔が因果を焼き切る。 教室の中に並び立ったシュカとネガイ——大神姉妹の放つ神気は、外界の浸食によって歪みかけていた「現実」の輪郭を、辛うじてこの場に繋ぎ止めていた。
「……ふん。創造と破壊、二つの極光が揃ったか。だが、それはこの世界の『綻び』をより広げる結果になるとは思わないかい?」
ナイは黒いデジタルの粒子を纏いながら、嘲笑うように宙に浮いている。彼の背後では、崩壊したはずの「逃避の門」の残滓が、より高度な幾何学模様へと再構成され始めていた。
「ナイ……! あなたが何を企んでも、私は明来ちゃんも、この街も渡さない!」
シュカが純白の羽を羽ばたかせ、風を纏った一撃を放つ。だが、その風はナイの体を透過し、背後の壁にデジタルなノイズを散らすだけに終わった。
「無駄よ、珠花。今のあいつは『人々の逃避願望』そのものと同期しているわ。実体を叩いても意味がない……。根本にある『現実への絶望』を断ち切らなければ!」
漆黒の業火を掌に灯したネガイが、冷静に妹を諭す。ネガイの瞳には、かつて「歌」を奪われた際に見た、世界の果ての虚無が映っていた。破壊の力は、その虚無さえも滅ぼすためにある。
「……あらあら、二人とも張り切っているわね。でも、少し力が入りすぎかしら」
その時、戦いの場であるはずの教室の窓の外に、一台の白い大型バイクが停まった。降りてきたのは、緒妻憂だ。彼女は混乱する学校の敷地内を、散歩でもするように優雅に歩き、別邸から持ち出したであろうお気に入りのティーカップを手に、二人の戦場を眺めていた。
「……あの子たちの輝き、今のキャンバスには少し眩しすぎると思わない? 破壊と創造が混ざり合えば、そこには『新しい色』が生まれるはず……。私はそれが見たいの」
憂が指先で空をなぞると、世界の基盤が微かに震えた。 シュカの忘却の風と、ネガイの滅却の焔。相反するはずの二つの力が、憂の「観測」によって強制的に共鳴させられていく。
「……くっ、体が勝手に……! 珠花、私に合わせなさい!」
「う、うん! お姉ちゃん!」
シュカの背後に天女の羽衣が舞い、ネガイの足元に黒き蓮華が咲く。二人の神気が渦を巻き、ナイを取り囲む「現実否定のフィールド」を粉砕し始めた。
「……チッ、邪魔が入ったか。だが、忘れないことだ。人々が現実を捨てることを望み続ける限り、この『仮想の楽園』の建設は止まらない。君たちが守ろうとしている日常こそが、彼らにとっての檻なのだからね」
ナイの姿が、急速にデジタルな霧へと溶けていく。
「逃がさない!」
シュカが手をかざし、最後の聖句を唱える。
「我は創造者! 我は全てを忘却する純白の神風! シュカ!」
ネガイもまた、黒き焔を凝縮させ、重なり合うように叫ぶ。
「我は破壊者! 我は全てを滅却する漆黒の業火! ネガイ!」
白と黒の奔流が教室を突き抜け、ナイの残影を完全に消し去った。
……静寂が戻る。
明来は床に倒れたまま眠りについており、ノイズに汚染されていた教室は、シュカの「忘却」の力によって、何事もなかったかのような日常へと書き換えられていった。
「……終わったの?」
珠花が変身を解き、肩で息をする。叶恵もまた、漆黒の神気を収め、疲れ果てたように壁に背を預けた。
「……ええ。でも、これは序章に過ぎないわ。ナイが言ったことは、半分は真実よ。人々の心が現実を拒めば、世界は勝手に『あちら側』へ作り替えられていく……」
二人の姿を、憂は遠く離れた場所から満足げに見届けていた。
「ふふっ。素晴らしいデュエットだったわ。……さて、哲ちゃん。今夜は少し、贅沢なワインでも開けましょうか。この物語の続きは、きっともっと『刺激的』になるわ」
憂はバイクに跨り、雷の様な爆音と共に去っていく。 彼女の瞳には、すでに次の「面白い展開」が映し出されているようだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




