第4章「創造と破壊の始まり…」10節:暴走する神性
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「あははは! 素晴らしい! その光、その輝きこそが、旧き世界の断末魔だ!」
ナイの哄笑が、歪んだ空間に反響する。 ウェイク・ゴッデスへと変身した珠花の周囲では、制御しきれない黄金の神気が嵐のように吹き荒れていた。彼女の背に広がる光の羽は、もはや優雅な天女のそれではなく、触れるものすべてを焼き尽くす苛烈な戦乙女の業火と化している。
「……う、あ……あぁ……っ!」
珠花は頭を抱え、苦悶の声を漏らした。 覚醒が深まるほどに、彼女の視界からは「街の姿」が消えていく。代わりに流れ込んでくるのは、気の遠くなるような太古の記憶。有明の海を朱に染めて戦い続けた、数えきれないほどの「私」たちの絶叫。
「珠花! 意識を保て! 神の力に自分を明け渡すんじゃねえ!」
ショロトル(てちち)が必死に吠えるが、その声も今の珠花には届かない。 彼女の瞳から感情が消え、冷徹な神の光が宿る。神話層という名の檻が、彼女を「人間・大神珠花」から「戦乙女・シュカ」へと作り替えようとしていた。
「さあ、その光で街を浄化してしまえ。人間としての未練など、私がすべて飲み干してやろう」
ナイが細い指先を珠花に向ける。 刹那、珠花の手元に凝縮された光の奔流が、防波堤を、海を、そして背後の街を飲み込もうと放たれかけた——。
「——やめて、珠花!!」
その光の射線上に、一人の女性が飛び出した。 大神叶恵。認識阻害の罰を受け、今はただの非力な人間でしかないはずの彼女が、妹の暴走を止めるために身を投げ出したのだ。
「お、お姉ちゃん……? どいて……危ないよ……」
珠花の唇から、まるで一種の戦闘マシンの様なな響きを帯びた声が漏れる。
「どかない! 珠花、私を見て! 貴女は戦う道具じゃない。私の、私のかけがえのない妹なの!」
叶恵は、死を恐れぬ足取りで珠花へ歩み寄る。 彼女を縛る「罰」の制約が、神気に触れて火花を散らす。ウカノミタマから与えられた「普通の人間としての器」が、神話級のエネルギーに晒されて悲鳴を上げていた。
「貴女が人間を辞めるというのなら、私がその神性をすべて引き受けて消えてあげる。だから……帰ってきて、珠花!」
叶恵は珠花の頬を、震える両手で包み込んだ。 その瞬間、叶恵の喉の奥で、封印されていた「歌」が、音にならない震えとなって共鳴した。
(……いいわ、叶恵。その願い、私が届けてあげる)
大神家の居間で、静かに茶柱を見つめていた憂が、微かに微笑む。 世界の基盤である彼女が、その一瞬の「因果の歪み」を肯定した。
叶恵の体から、淡い光が溢れ出す。それは神としての力ではなく、人間としての「執念」が引き起こした奇跡。 珠花の瞳に宿っていた冷たい光が、叶恵の温もりに触れて、みるみるうちに溶けていく。
「……お姉、ちゃん……。ごめん……なさい……」
光の羽が霧散し、珠花は叶恵の腕の中に崩れ落ちた。 街を焼き尽くすはずだった神の火は消え、ただの夕暮れの風が二人の間を吹き抜ける。
「ちっ……。興が削がれたな」
ナイは不快そうに目を細め、一歩退いた。
「だが、一度開いた『外界』の穴は、そう簡単には塞がらない。人々は依然として恐怖し、仮想の安らぎを求め続ける。……戦乙女よ、次こそは君自身が、その翼で自らの日常を叩き折る姿を見せてもらうよ」
影に溶けるように、ナイの姿が消えていく。 後に残されたのは、静まり返った堤防と、抱き合う姉妹の姿だけだった。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




