第3章「黒い犬と白い猫」9節:弱虫な狗神
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
「"ショロトル"、お前が俺に代わりに行け!」
南米メキシコと人間達から呼ばれる国に僕が住む"ケツァルコアトル"神殿がある…。いいや、厳密に言えば双子の兄の家だ…。僕は居候…。遥か昔から僕は兄の"蛇神ケツァルコアトル"の神殿の一角…というか…隅っこあたりに暮らしている…。双子の兄の"蛇神ケツァルコアトル"の様な龍とも呼べる巨大な体躯ではなくて、元々、身体は小さい方だし、ご神体化すればもっと小さな姿に変われるので特に不便はない…。それもその筈で僕の子孫達は今、"チワワ"と呼ばれている"世界最小の犬種"として、人間達から愛されている…。ま、その大先祖だから、僕がご神体化して変わった身体の大きさもその子孫達と大差はない。それよりも、今の兄である"ケツァルコアトル"が突然言った言葉…。僕は兄の代わりにどこかに行かないといけないんだろうか…。
「唐突に何を言うんだい兄さん!どこに兄さんの代わりにいくのかも分からないのに…」
僕は兄にそう答えた…。まあ、当然の答えだろう…。いきなり「俺の代わりに行け!」って、流石に兄さんの頼みでも、無茶ぶりにもほどがある。何の代わりかも、何処にいくのかも分からないのに…。
「じゃあ…行ってはくれるんだな?」
"ケツァル"兄さんの返答…。相変わらず強引過ぎる…。僕は代わりになるとも言っていない…。
「そ、それは…その…」
僕が僕の中で1番嫌なところ…。そう、僕は自分でいうのもなんだけど、かなり優柔不断だし、かなりの怖がりだ!"ケツァル"兄さんとは逆…。双子だから"神気"も同等、出来る事もほぼ変わらない…。ただ、見た目が"大蛇"か"小型犬"位は違うけど…。兄さんはかなりの面倒くさがりなので、昔は何度となく色々な事を代わりにさせられた。かなり残酷な事もさせられたので余り良い思い出もない…。
「ありがとうよ!優しい弟ショロトルよ!俺の代わり行ってくれるんだ!持つべきものは双子の弟だな!」
また、強引に話を進めてくる"ケツァル"兄さん…。この話をどうにか誤魔化したい…。本来、兄さんがすべき何か…しかも、どこかへ行くという話…。申し訳ないけど、兄さんが留守になると、この神殿で悠々自適に生活できる♪
「ところで…何故、兄さんは行かないの?その行って欲しいという場所に…」
兎に角、大体想像はつくけど、僕は兄さんに理由を尋ねてみた…
「面倒臭くさそうだから…。それじゃあダメか?」
あ~思った通りの返答…。でも、先ずは理由を聞かないと話は進まないから、聞いたけど…やっぱり意味はなかった…。
「面倒くさそうって、理由があるから行かないといけないんでしょう。」
「そうだな!理由はある…。兎に角、あいつを始め、"創世の神々達があつまる緊急の会合"で決定された事だ!それも面倒くさいからさぼってたら、俺が欠席してるからと、あいつらは俺にその役目を押し付けてきやがった!だが、その役目は決して俺じゃなくても良いんだよ!つまり、俺に匹敵する程の同じ"神気"さえある神であれば…俺じゃなくても良いわけだ!だから、双子の弟で俺に匹敵する"神気"を持つ"ショロトル"にぴったり!」
「ああああああああああ!ちょっと待って!その"創世の神々達があつまる緊急の会合"が会ったことも知らないし、何故、僕が"ケツァル"兄さんの代わりになるの?そんな会合があるなら僕にも案内が届いていたはずだよね?」
この馬鹿兄は何てことをしでかしたんだろう…。ちょっとこれは大問題だ!"創世の神々達があつまる緊急の会合"がある事自体、数百年に1度、いや千年に1度あるかないかの、かなり大ごとなことなのに…。あの馬鹿兄は「面倒くさいからさぼった」で済ませてしまった…。これは本当に大問題だ…。それに僕も同罪にされている…。僕の知らないところで…。
「面倒くさいから破いて捨てた…俺の分もお前の分も全部!読むのも返事出すのも面相くさいだろう!」
「に、"ケツァル"兄さん…。何てことを…。"創世の神々達があつまる緊急の会合"は"絶対参加"の厳格な話し合いなはず…。その案内状をただ、面倒くさいからという理由で破いて捨てて…。」
"創世の神々達があつまる緊急の会合"は"絶対参加"…。これを面倒くさいで終わらせようとする兄の気持ちが分からない…。しかも、何かの役目を押し付けてたとケツァル兄さんは言った…。これはとんでもない…本当にとんでもない役目を代わりにさせられるかも知れない…。それは絶対に嫌だ!
「だ・か・ら…。そんな俺に大役が出来ると思うか?思えないよな?いや…誰も思えないと思うぜ!任せても責任とれないかもしれないからさ!だからこそ、"ショロトル"!お前が俺に代わりに行ってくれ!って言ってるんだ!どうせ、お前も無断欠席組なんだし、責任をとらないと…ハハハハハ…。」
やられたー。"ケツァル"兄さんは"大役"とまで言ってきた…。本当に本当に危険な予感がする…。
「謀ったね兄さん!」
「俺は大事な弟を謀ってはいないぜ!」
いつも自身満々の兄さん…。そして、嘘か本当か分からない答えを言う…。もし、人間達が僕たちの姿が見えていたら、巨大な龍相手に小型犬がキャンキャン吠えているとしか見えないだろう…。とても滑稽な絵姿に違いない…。
「それは…その兄さんが役目を受けた事は決して断れないんだよね?」
僕は半ば諦めながら、一応の最終確認をする…。
「断れないね!断ったら最後、"あいつ"が激怒してやってくるだろうよ!この世界、いや"宇宙最狂の戦神"が!」
「ちょ…ちょっと待って!この"世界最狂の戦神"って…行き先はまさか…ジャパン!」
"世界最狂の戦神"と呼ばれる神と言えば、1柱しかいない…。ジャパンの神…。神様としたは控え目で"世界最狂の戦神"とは言われてるけど、何度か会ったこともあるし怖い印象もなく優しい方ではあるけど…。"戦神の世界"では、兎に角1番怒らせてはいけないといわれている…。それにしても僕はジャパンに行かないといけないのか…。
「な~んだ!ちゃんと良くわかってるじゃないか!兎に角、ありがとうよ!俺の優しい弟"ショロトル"よ!代わりにジャパンに行ってくれるなんて…ハハハハハ…。あと、"バステト"さんもお前と一緒にジャパンにくるらしいぜ!エジプトからわざわざだとよ…ハハハハハ…。」
"バステト"さん…。その名前にも僕はとても驚いた!"バステト"と一緒に行くのか!ジャパンへ…。あの"バステト"さんと…。しかも僕が…。
「兄さん、僕だけじゃなく、それこそ、その"バステト"さんまでジャパンに来るほどの何かがあるのなら、分かる分だけでも教えて欲しい!」
「そんな事か…。俺は本当に何も知らん!それこそ、案内状から全部破り捨て燃やしちゃったし…。だから、ジャパンに俺が行かないとわかったのも今!」
呆れるにも程がある…。それに今、分かった?何をするかも分からないのにジャパンに行くことだけが分かるって事があるのか…。
「じゃ、じゃあ何で、全部破って燃やしたのに…ジャパンへ行くことが分かったの?」
「それは…。迎えにきたからだよ!今、お前と話をする前にやってきた…。」
「だ、誰が来たの…。」
非常に嫌な予感がする…。今まで兄の"神気"に気が向いていて気付かなかったけど…いる…抑え込んでも漏れる程の凄い"神気"の噂の彼女が…ここに…。
「勿論、エジプトから破壊と殺戮の女王…歌と豊穣の女神様だよ♪」
バシシシシシシシシシシシシシシシシシン!神殿内に大きな衝撃音が木霊する。
「ウゲエエエエエエエエエエエエエ…」
バアアアアアアアアアアアン!!更にもう1度大きな衝撃音と苦痛の呻き声…。あの巨体な龍ともいえる兄の身体が、まるで丸めた紙くずにみたいに壁にぶつけられている…。まごうなりにもアステカ神話内の超高位神である兄をいとも簡単に、まるでゴミ扱いできるのは数える位しかいないだろう…。そして、僕は兄が紙くずみたいに飛ばされる前に居た場所に視線を動かした…。あ………やっぱりいた…。
「このウツケものが!」
"バステト"さん…。いや、"バステト"神…が、"ケツァル"兄さんを激しく罵倒する。古代エジプト神話界の"超有名神"であり、或る意味曰く付きの女神様…。豊穣の神、歌や踊りの神であり、かつては破壊と殺戮の悪神としての過去を持つ…"超高位"の"猫神"様だ…。
「兄さん、だ、大丈夫か?」
ウウウウウウ…と非常に情けない呻き声をあげる兄さんと、その兄さんを捕食者としての目で見つめる"バステト"さん…。
「昔から変わらぬな!"ケッアル"よ!わらわのいないならまだしもいる前でまあ、"無礼千万"な事を言いいよったな!今から消し炭にしたやろうか!え~~~っ!どうじゃ!」
「…おおおおおおお…。も、申し訳…。」
"バステトさん"に許しを必死に赦しを請う"ケッアル"兄さん…。遥か古代から多くの人間達に信仰され未だ信仰されている威厳ある"超高位神"とは思えない程の情けない姿…。そんな兄さんの姿に呆れたのか"バステト"さんは、僕の方を向いて、聞きたくなかった言葉をかけてきた…。
「ふん!こいつは役に立たん!いくぞ!"ショロトル"!もうそなたで良い!"ケッアル"よりマシな考えを持っておる!ケッアルはあれはクズじゃ!あいつの言葉でそのまま返すと、消し炭にするのも面倒くさいわ!」
これはもう不可抗力というものだろう…。"ケッアル"兄さんがアレでは…。流石に"バステト"さんの言葉には逆らえない…。"ケッアル"兄さんと同じようにはなりたくないし…。この流れは完全に僕が"バステト"さんと"ジャパン"へ行くことが決定してしまったということ…。
「おい!"ケッアル"よ!」
「あ…はい…」
「大層なことにお前の名前がついてる神殿の“前線”を使わせてもらからな!今から"ショロトル"と"ジャパン"に行ってくる…。ちゃんと、今まで全部、"ショロトル"に丸投げした分の自分自身の仕事をちゃんとするんじゃぞ!わかったな!」
「あ…はい…。わ、わかりました…。"バステト"さん…。」
バステトさんに一言一句に怯えて全身が震えているケッアル兄さん…。
「実につまらん"蛇神"だ!”行くぞ!"ショロトル"!ジャパンへ!」
「あいつが首を長くして待っておるからな!」
「はい。わ、わかりました…。」
あいつ…。あの"世界最狂の戦神"である彼女に間違いないだろう…。確か数千年前に1度"邪神化"した"バステト"さんを叩きのめして元の女神に戻したのも彼女だったはず…。知らない神でもなく、僕のイメージでは"優しい女性"なので、兄のところにいるよりも意外と優雅に暮らせるかもしれない…そんな湧きあがる淡い気持ちを抑えながら、僕は"バステト"さんと、兄さんの神殿「ケツァルコアトル神殿」の兄の祭壇の裏側にある"前線"へ足を運ぶ…。これから、兄の言う通り非常に面倒くさい事が待ってるとは露知らずに…。
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




