第2章「願い叶え」3節:願いの代償…
この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。
祐徳稲荷神社のご本殿…。一見、煌びやかで豪華絢爛な佇まいであるが、静寂と独特の漂う空気がそこが神聖な場所であると誰もが思わせる…。実際、この場所は稲荷神社の主神であるウカノミタマオオカミと、彼女を中心に"稲荷大神"とよばれる3柱("倉稲魂大神"(以下、ウカノミタマ)、"大宮売大神(以下、オオミヤノメ)"、"猿田彦大神"(以下、サルタヒコ)。)が鎮座する、神社内で最も高貴であり神聖なる場所…。その場所に今、"私"と"白"、"慶"の"岩崎大神"と呼ばれる3柱がいる…。
「紅、よく来てくれたわね!」
この私に"岩崎大神"としての器であるホムンクルスと神である奇跡の力を授けて下さった母神様であるウカノミタマ様…。
「なかなかの大活躍だったらしいじゃねえか!」
戦神として戦う力を授けて下さった父神様であるサルタヒコ様。
「あ、あなた!」
サルタヒコ様に注意を促す女性。こちらにいるオオミヤノメ様(別名:アメノウズメ)も私に歌と踊りの力を授けた下さった母神様だ。
「あ、すまんすまん…」
サルタヒコ様がオオミヤノメ様に申し訳なさそうに謝った。この2柱は、実際に"夫婦神"である為、そこに"ウカノミタマ"様が入る形で誕生した私は、何だか"微妙な立ち位置"にいることになる…。
「恐れながら、稲荷大神を司る御神様へお願いの儀がありお伺いさせていただきました。」
とりあえず、まずは主神であり私の母体でもある身体を創造されたウカノミタマ様に対して、願居に関して、お伺いの儀を立てることにした。
「御神様ね…。何度言っても変わらないだろうけど…"紅"…あなたは私の可愛い娘よ!それだけは分かって欲しいわ!」
ウカノミタマ様の母神様としての優しい言葉…。だが、私はウカノミタマ様を母と呼べれる程の力は持たないのだ…。
「俺も"ウカノミタマ殿"に同上!」
「わたくしもですわ。3人の娘だもの…。わたくしは仰々しいのは嫌よ!」
サルタヒコ様、オオミヤノメ様もウカノミタマ様に続き、間髪も入れずに続けさまに言う。
「で…ですが…。」
正直、私的には父神様、母神様ではあるが…、まごうなりにも、この国の中では最高位にあたる神々様という立場である為、少し遠慮して欲しいと思う気持ちはある…。
「まあ、"紅"の性格だから仕方ないと今回も諦めましょう…。あと、あなた達が私達のところにきた理由も分かります。」
「そ、それでしたら…。」
「今回の問題は…。私達だけの判断では難しいのよ…。あの子は…"願居"は…。"蕃神の王"の1柱…。しかも1番厄介な"無貌の神"に利用されていたとはいえ、決して踏み入れてはいけない領域に足を踏み込んでしまったの…。その罪は軽くはないわ。」
ウカノミタマ様の言葉は分かる…。ただ、願居を救いに行きなさいと私を促したのも、ウカノミタマ様だ…。願居が邪神になろうとした罪は確かに神の規律に従えば重罪だ。だが、願居自身はどうにか”蕃神の王”の中でも1番厄介な”無貌の神”なる者に騙されて、闇に染まった…。情状酌量の余地はあるはず…。
「では…。どうしても"願居"は助けてはいただけないのでしょうか…。」
兎に角、私は願居を救いたい…。私は何のために彼女の罪穢を被り大祓いしたのか…。
これでは、彼女を救った意味がなくなってしまう…。どうにか…どうにかならないのか…。
「べ、"紅"!兎に角、落ち着くんだ!」
「け、"慶"…。私は…。」
慶の言葉に私は返す言葉が出なかった…。頭の中が混乱している…。そんな私の気持ちを察したのかウカノミタマ様は白にこう問いかけてきた。
「して、"ケルビム"殿…。いや、今は"白"殿とお呼びするのが良かったかな?"白"殿はヘブンの天使として、この件、どう思われるか?」
「"紅"の気持ちは分かる…。"紅"にとって…。"願居"は1番大切な存在だから…。助けられる方法も分かる…。でも…。」
助けられる方法…。"白"はそう答えた…。願居"を助ける方法…。それは魂をホムンクルスの器に移し新しい願居"として生きる事だ。だが、彼女が犯した罪は消えない…。
「そうだな!その通り!"願居"は罪を犯した。それも神として重罪だ!そのまま、許すって訳にはいかねえ!」
サルタヒコ様の返答…。そのまま許す事は難しいが…何かの条件があれば願居は助けてもらえると考えて良いのだろうか…。私はもう1度、同じ問いを稲荷大神である3柱様に問うことにした。
「"願居"の存在が消えそうなんです…。せめて、私はどうなっても構いません。"願居"をどうにか助けてはいただけないでしょうか!」
私が願居の大祓いをしたのだ…。彼女を助けるために…。邪神化してまで得ようとした”みんなの幸せ”を彼女自身の手で潰してしまわない為に…。そして、新しく私やIS:Tの皆で歩むために…。私はここで引き下がるわけにはいかない。慶や白には悪いと思うが、1度は願居を救う為に神としての存在さえも捨てるまで覚悟したのだ…。私が犠牲になることで願居が救われるなら、再び、私の神としての存在を捨てよう…。
「"白"殿から聞いているとは思うけど…。存在が消えゆく"願居"を助ける為には、"新しい魂の器"が必要なの。」
「そ、それは承知しています。で、ですから…。その"新しい魂の器"をご用意いただけないでしょうか…。」
オオミヤノメ様が私を悲しそうな表情で見つめて、そう答えた。私の覚悟を察したのであろう…。そして、その言葉の通り、私を創造した稲荷大神の3柱様なら願居の器であるホムンクルスを作れる資格も神力も備わっている…。どうにか、願居の魂を救う為に…彼女を救う魂の器を手に入れたい…。
「娘のお願いを無下にはできないけど…。そうね…。でも、もうこの"願居"の処罰の件については、創世の神々達によって既に決まってるのよ…。"願居"が背負う罰は3つ!」
「既に決まっている」「願居が背負う3つの罰」それでは、もうこうなることを見越して、何もかも仕組まれていた事なのだろうか…。では誰が何の為に…。
「それでは…。"願居"の存在は助けていただけるのでしょうか?」
「勿論、或る創世を司る古の御神殿…。私の古くからの特別な友人が"願居"の新しい魂の器を既に用意してくれたわ…。でもここからが"願居"にとっても、あなたにとっても、辛い罰になるわ…」
願居の件は既に仕組まれていた…。既にホムンクルスの器が存在しているのだ…事情を知るのは級長津彦命様か、級長戸辺命様か…。それとも…。願居を大祓する時点で、願居が邪神化から救われた場合、魂の器が必要になることを予測でき、そして、ホムンクルスを創造できる資格と神力を持つ神は早々はいない…
それに加えて。辛い罰もあるとも言われている…。ただ、私と願居が罰を償えば良い事…。存在が消えるという1番悲しい結末にはならないという事が分かり、私は心の底から安堵した。
「その罰とは…。いえ、"願居"が助かるのであれば、私も"願居"と緒に罪を被ります。」
「"紅"、あなたは罰を犯すようなことはしていない…。ただ、あなたにとっては罰というより、しばらく辛い日々を送ることになるって事かしら…。"認識阻害"は分かるわよね?」
私に対してウカノミタマ様がそう尋ねてきた…。”認識阻害”は知っている。それこそ先日、私が過去に”伝承芸能”を教えてきた狐神族の男女が、1000日もの間、認識阻害の儀式を受け、それぞれの愛が本当であることが認められ、無事に狐の嫁入りを果たしたからだ。まだ、それから月日はそう経ってもいない…。
「はい。"ウカノミタマ"様の眷属達が"狐の嫁入り"の際に行う覚悟の儀式として試される愛する者を見ることも聞くこともできなくなる一種の呪詛的なもののはず…。」
「そう、その通り…。ただ"認識阻害"の質も上から下まであるのよ。軽い物だと何となく存在を分からなくする程度…。因みに私が狐の嫁入りに用いる場合は中規模程度ね。ある程度の神気の持ち主なら見破ることができるもの…。でも、"願居"の罰は違う…。"神々の戒め"と呼ばれる"認識阻害"の事よ!2度と同じ過ちを犯さない為の戒めの為の"認識阻害"…。1000日の間、"願居"はそれを受けることになる。」
「それはどういう…。」
「”神々の戒め”と呼ばれる”認識阻害”」…。私が初めて聞く言葉だった。狐の嫁入りの認識阻害と何が違うのだろうか…。
「私達、神も含めて全ての者に対して、その存在自体を誰にも分からなくさせるもの…。その存在を知ることがきるのは、その"認識阻害"をかけた複数の偉大なる創世の神のみ。本来は神々達が罪を犯した神に対して、崇拝する信仰心を奪い力を削ぐ為に行う事なの…。ただ、もう、"願居"の場合が違うわね…。もう彼女は神ではないから…。1柱もしくは数柱の創世から存在する超高位神が、その"認識阻害"を行う…。どのお柱がされるか何柱でされるのか…。日本の神なのか、それとも他の世界の神なのかどうかも…私達でさえ分からない…。だから、紅!あなたも本来、"願居"である者が目の前にいても、"願居"とは分からなくなるのよ…。」
「でも、"願居"は助かるんですね…。1000日なら…。私は20年…20年…"願居"を待ちました…。無事に助かるのであれば1000日など…」
「紅…強くなったわね…。そんな強くなった私の娘に、本当に些細なものだけど贈り物をします。"願居"にかけられた残り2つの罰…。もう、余り残された時間はないでしょうけど…。その時間まで、あの子に仮そめのものですが…"願居"がまだ私の眷属だった頃に似た器を与えましょう…。そして、来たる1000日の罰が行われる日まで、一緒に過ごしてあげなさい…。」
「本当にありがとうございました。」
「さあ、お行きなさい!"願居"も目覚める頃あいでしょう…。ですが決して忘れないで…。今の彼女の器は仮初のもの…。そして、そう長くない内に彼女は別の存在として生きることになる…。だから、1日を1日を大切にしてあげてね。」
ウカノミタマ様の心遣いに私は涙が止まらなかった…。願居がうける3つの罰の内の罰の1つは「”神々の戒め”と呼ばれる”認識阻害”」。ほかの2つは、まだ分からないが、願居なら絶対にこの試練を乗り越えてくれるはず…。そして、僅かではあるが昔と同じように一緒に過ごせることもできる…。今は慶や白、IS:Tの仲間達もいる…。1000日の試練の日が早かったと思えるくらいに楽しい思い出を作ろう…。
「ありがとうございました。」
私は、もう1度そういうと慶と白と共に祐徳稲荷神社のご本殿を後にした。もう直ぐ、願居が目覚めるのだ。昔のままの姿で…。私の中で3つの罰よりも先ず、願居が救われる事…。そして、僅かな期間ではあるが共に過ごせる日があることを…稲荷大神3柱様に心の底から感謝した…。
★紅、慶、白が去ったあとの祐徳稲荷神社のご本殿内★
「ははははは…。正直、我が娘ながら、あれほどの凄まじい神気を使えば、自分で器なんぞ作って、どうにでもなるだろうに…。まあ、あの鈍感さと謙虚さが娘として俺の自慢ではあるが…。」
「あ、あなた、もういい加減にされてください。"ウカノミタマ"殿、これで良いのでしょう…。」
「良いも何も…全部…フフフフフフフフフ…」
「あ~、もしかして、これって、"彼女"が仕組んだ通りって事?」
「えっ!あちゃ~あ、そうだったのか!俺、知らずに心配してたぞ!あいつめ~。でも、怒らせると怖いから…俺も黙っておこう…。」
この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。




