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【完結済】おとぎ前線外伝 - シュカ - Secrets of SAGA  作者: 久遠 魂録


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最終章「SAGASAGA」7節:神性の直感と教授の論理

この度は、数ある作品の中からこの物語をお手に取っていただき、誠にありがとうございます。どなたか1人でも、当作品の存在を知っていただけるだけで幸いです。

「……あと、コンマ数パーセント。このわずかな『揺らぎ』が、世界の安定を阻んでいるのか」

SAGASAGAのメインフレームが並ぶ地下深層部。哲人は、幾千もの多変数関数が乱舞するコンソールを前に、苦渋の表情を浮かべていた。


工学的に完璧な物理演算。経済学的に破綻のないリソース循環。哲人がその二つの博士号に懸けて構築したシステムは、理論上、これ以上ない完成度に達していた。


しかし、シミュレーションを実行するたび、仮想世界の隅々に微細な「亀裂」が生じる。それは計算ミスではなく、余りにも完璧すぎるがゆえの「硬直」だった。


「教授、計算上のエラーは皆無です。ですが、被験者の意識データが、この完璧な世界に対してわずかな『拒絶反応』を示しています。理論的な整合性が、逆に不自然さを生んでいる……。これをどう修正すればいいのか、我々の知見ではもう……」

モニター越しに教え子たちが困惑を露わにする。哲人は眼鏡を外し、熱を帯びた額を掌で覆った。


40歳。培ってきた論理のすべてを注ぎ込んでも、なお届かない領域。それは「生命の吐息」そのものだった。


「哲ちゃん。少し、お休みしましょうか」

背後に、静寂そのもののような気配が立ち上がる。

憂だった。彼女は、モニターに映る無機質な数式の羅列を、慈しむような目で見つめていた。その瞳は、哲人の妻としての優しさと、全宇宙を統べる「女神」としての深淵な光を同時に宿している。


「憂さん……。論理は尽くした。だが、この世界にはまだ『魂の居場所』が足りないようだ。何かが、致命的に欠けている」

哲人は自嘲気味に呟いた。25歳で彼女と結婚したあの日、彼は自分の知性で彼女を、そして家庭を完璧に守り抜けると考えていた。だが、15年の歳月を経て知ったのは、理屈だけでは救えない「心の襞」があるということだった。


「哲人さんの作った世界は、とても綺麗。でも、綺麗すぎて、みんな『間違えること』を怖がっているみたい」

憂は、哲人の隣に座ると、その細く白い指先をメインコンソールへ伸ばした。


「少しだけ、私の『わがまま』を混ぜてもいいかしら?」


「君の、わがまま……?」

哲人が見守る中、憂の指がキーボードを叩くのではない。ただ、モニターに流れる無数の「0」と「1」の激流に、そっと触れただけだった。

その瞬間、哲人の構築した冷徹な数式の森に、黄金色の光が霧のように染み込んでいく。

それは、工学的な最適解を破壊する「無駄」であり、経済学的な合理性を無視する「慈悲」だった。


「ここに、『忘却』の風を吹かせましょう。悲しみすべてを消すのではなく、いつか優しさに変わるまで眠らせておけるような風を」

憂の言葉と共に、シュカ(珠花)が操る浄化の神風の概念がコードに組み込まれる。


「そして、ここには『許し』の雨を。どんなに間違えても、明日にはまた笑い合えるような、柔らかな雨を」

ネガイ(叶恵)が司る宿命の滅却。その激しい力が、憂の指先を通じて「やり直しの権利」という名のプログラムへと転換されていく。


「……信じられない」

哲人は、目まぐるしく書き換えられていくモニターを凝視した。

彼が必死に維持しようとしていた「整合性」は、憂の介入によって一度崩壊した。しかし、その崩壊の跡から立ち上がったのは、不規則でありながら圧倒的な生命力を孕んだ「本物の世界」だった。


「これが……憂さんの直感……」


「哲ちゃん、いいえ、哲人さん。これは『愛』よ」

憂は微笑み、夫の手を握った。


「あなたが積み上げた論理という骨組みがあったから、私はそこに命という肉付けができたの。27歳で親になった時、私たちは理屈じゃなく、ただ子供の笑顔のために動いたでしょう? それと同じよ」

哲人は、握りしめられた憂の掌の温もりを感じ、不意に視界が潤むのを禁じ得なかった。

40歳。知の巨人と称されても、自分はまだ、この最愛の女性の掌の上で「正解」を探している子供のようなものだ。


「……負けたよ、憂さん。僕は昔から君の微笑み一つには敵わないようだ」


「ふふ、勝ち負けじゃないわ。これは、私たちの『合作』だもの」

モニターの中では、SAGASAGAの空がかつてないほど深く、澄んだ色に染まっていく。

論理が神性と融合し、世界はついに「器」から「故郷」へと進化した。


哲人教授の緻密な設計図に、憂が最後に一筆を加えた。


その一筆こそが、SAGASAGAに不変の寿命サーガを与える、真の「命の定義」となった。

この度は、私の作品を最後までお読みいただき、心より感謝申し上げます。読書のお一人でも、心に響いて頂けましたら幸いです。

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