第七話 幻想家族自重しない改造人間は実の父っ! (白目)
ずきずきと痛む後頭部を摩りながら僕は鞄を抱え直す。
はあ~~とため息が出た。
いや本当に。
「あ~~痛かった」
後頭部の痛みの原因は家で家事をしている時に不注意が招いた結果だ。
幸い病院に掛かるほどの傷ではないが大きな瘤が出来たのは御愛嬌だろう。
派遣先の食品加工工場のから帰宅したは良いが残業が多く遅くなった。
最終電車を乗り損ねなかったのは運が良いと思う。
「季節的に寒くなったな~~」
季節は秋から冬。
本格的に冷えてきた。
空を見上げる。
時間的に言えば深夜。
見渡す限りの満天の夜空に僕は感嘆の息をつく。
四十代後半。
出会いもなく気が付けば此の年だ。
最早結婚は無理だろう。
両親は既に七十代後半。
何時お迎えが来ても可笑しくない。
兄弟は兄と姉が一人ずつ。
自分が末っ子だ。
残りの家族と言えば猫ぐらいだろう。
兄と姉は既に結婚しており子供もいる。
其れに比べ自分は結婚どころか出会いすら無い。
目下の悩みは其れだ。
まさしく何処にでもいるモブのような人生だ。
僕は目を伏せて考え込む。
後は……。
「此の後カラオケ行く?」
「行くっ!」
「良いねっ!」
十代の若者が白い息を吐きながら後ろから僕を追い抜く。
近くのカラオケボックスに行く気だろう。
いい気なものだ。
将来も何も不安が無いんだろう。
まあ~~人は人。
僕は僕だ。
うん?
ううん?
おかしい。
何かデジャヴ?
既視感というかつい最近同じ様な事が有った気がする。
はて?
そんな時だった。
其れが現れたのは。
「「「キイイイイッ!」」」
奇声を上げ現れる全身黒ずくめの男たち。
顔まで黒い布で覆われた其れは異常者と呼ぶに相応しかった。
異常者にして異常な者たち。
そう呼ぶ理由も有る。
全身を覆う布はごく一部を除き目しか外気に晒して無かった。
手には棒のような武器を持っている。
異常者にして異常な者たちというにも理由が有る。
眼の白目が無く黒かったからだ。
人ではない。
人にしては異常。
「ひっ! やめろっ!」
「うわっ!」
それらは僕を追い越した若者たちを打ち据えた。
「ふふふっ! 喜ぶがいい貴様らは我が秘密組織【ケッター】の構成員に選ばれたのだからな」
その言葉と共に暗闇から現れた異形の物。
そう。
其れは異形と言って良い。
顔は獅子の仮面を被り胴体は着ぐるみとは思えない人を模した獣の姿を持つ異形。
異形。
そう明らかに異形の者だった。
異形……明らかに其れは怪人と呼ぶに相応しい姿の者だ。
「なんなんだよ御前らっ!」
「警察に通報するぞっ!」
「ひっ!」
ザッシュッ!
「ぎやあああああああああああっ!」
真っ青な顔をして悲鳴を上げる若者たち。
だけどそれ迄だった。
「ひいいいいっ!」
「「いやああああっ!」
何かが切られる音と共に悲鳴が上がる。
切られたのだ。
怪人に。
若者の一人が片手を切られていた。
「見せしめに一人ぐらい殺しとくか……うん?」
にいい~~と醜悪な笑みを浮かべる怪人。
其れはあまりにも非現実的な光景だった。
「貴様……」
「はい?」
其の時だった。
何故か怪人は今初めて気が付いたと言わんばかりに僕を見る。
其の目に戸惑いが見える。
何故か分からない。
「何時から其処に居た?」
「はあ? 最初から居ましたが?」
「気にいらん」
「はい?」
怪人の言葉に僕は内心首を傾げる。
「何故貴様は怯えない?」
「どうして……ていわれても……」
予想外の事を言われ僕は苦笑いする。
あれ?
おかしいな?
何で僕は目の前の光景に混乱してない?
何故か酷く冷静だ。
「気に入らん」
「は?」
「気に入らんぞ貴様」
「まてええええええっ!」
そんな時だった。
その声が聞こえたのは。
何処かで聞いた声が。