第一話 実母は魔法少女
マジカル・タカコ。
其の名は恐らく此の国で一部の人間にとって有名である。
五十年前に流行った特撮物の主人公の名だ。
ジャンルは魔法少女物。
人々のストレスを具現化させ世界征服を企む秘密組織が存在する近未来。
人の善意の念が動物に変わったマスコットキャラと契約して戦う者がいた。
それがマジカル・タカコだ。
という設定です。
当時魔法少女と言えばアニメでしか見られなかった。
其れを帝都チャンネルが社運を賭け特撮で放送したのだ。
其れは視聴率五十を超える人気作品になった。
以降に十年かけ放送され続けた人気作品である。
放送終了した後も熱心なファンが居たというからその人気は本物だ。
続編を望むファンの声を聴き何度も続編が作られたらしい。
其のうち主人公が交代した続編も作られるようになっとか。
魔法少女物。
仮面を被ったヒーロー物。
戦隊物。
今では日曜の定番番組である。
その初代魔法少女が居ます。
目の前に。
「あ~~昆布茶が美味しい」
「お腹すいたんだけど飯はまだ?」
「此れ飲んだら上げるから待ってて」
「は~~い」
魔法少女が目の前で昆布茶を飲んでた。
実家に着いてすぐ。
しかもペットのタマは暢気に御飯の催促をしている。
「烏賊とかは食べられないからね猫だし」
「タマ……あんた此の間美味いと言ってイカ天食べてたじゃない」
「え……アレ烏賊なの?」
烏賊を食べたショックでブクブクと泡を吹くタマ。
今更~~と呆れた顔で御母さんは御飯の準備をし始める。
母とペットのタマ。
うん。
カオスだ。
「あ~~御母さん」
「な~~にマー君」
のんびりとした何時もの母さんだ。
その表情は、あの魔法少女の面影はない。
だがアレは現実だ。
表情だけわね。
「アレは本当に有った事なの?」
「アレって?」
「巨人の事だよ」
「巨人? あ~~ストレス獣の事ね」
「ストレス獣……其処まで同じなんて」
頭を抱え込む僕。
「ストレス獣を具現化させている悪の秘密結社ストレスも存在するわよ」
「存在するんかいっ!?」
【悪の秘密結社ストレス】
秘密結社ストレスは元々悪の組織ではない。
元々人のストレスが及ぼす社会現象に心を痛めた科学者が作り上げた組織だ。
人のストレスが及ぼす犯罪を減らすべく作り上げられた想念具現化装置。
具現化したストレスを破壊することで元の持ち主の精神を安定化させる機械である。
所が此れを悪用する集団が現れた。
そいつらは具現化したストレスを兵器として悪用し始めたのだ。
しかし組織の中には良識を持った人も居た。
其の人達が瀕死の重傷を負いながら思念獣を作り上げた。
マジカル・タカコの変身に欠かせない思念獣タマをだ。
思念獣タマ。
人の善意を具現化させたタマと合体することで魔法少女は誕生する。
「という設定だったと記憶に有るんだけど……」
「合ってるわね」
「そうだな~~モグモグ」
僕のうろ覚えの知識に頷く母さん。
其れとタマ。
飯を食いながら話すな。
「其れはそうと御母さん」
「なあに~~マー君?」
「何時までその姿なんですか?」
「え?」
年甲斐もなく首をかしげる。
幼い姿で。
「魔法少女の姿のままなのですが……」
プルプルと僕は蹲る。
羞恥心の為だ。
頼む。
頼むから正座してくれ。
魔法少女の姿は基本ミニスカートだ。
戦闘中は良い。
ある種の補正効果が得られるから。
だけど日常は其れが無い。
したがって胡坐をかけば見えます。
色々と。
何で実の母の下着を見なければいけないんだ。
しかもリボン付きの……。
七十台何だから歳を考えて欲しい。
「変身は五時間は解けない仕様なんだけど」
「そうだな~~安全仕様だからな~~」
「さいですか」
後五時間僕はこの苦行を耐え抜かなけばいけないのか……。
この苦行に僕は軽く絶望した。