第十話 実の父は改造人間である。(何してくれたんだ?)
ズルズルと御茶を飲む僕。
「そういえば御父さん?」
「なんだマー君?」
「御母さんは御父さんがママチャリライダーだという事を知ってるの?」
「知らない筈だ」
「ですよね~~」
まあ~~当然だろう。
ママチャリライダーとはいえ人間。
その正体を知ってるものは居る。
特に年単位で戦ってたんだ。
知っている筈だ。
うん。
というかママチャリライダーという事を受け入れたのか……。
「……って知らないのかいっ!」
「何がマー君?」
「御父さんがママチャリライダーだという事をっ!」
「まあ~~ねえ~~」
「御母さん長年夫婦をしていて何でしらないのさっ!」
「ゑ?」
何故か変な顔をされた。
何言ってんだ此奴という顔だ。
実の息子に酷くない?
「何?」
「あ~~マー君……普通は怪人とか戦闘員は見えないんだが……」
「はあ?」
御父さんの言葉に僕は、はあ? と間抜けな顔をする。
緑茶を飲みながら答える御父さん。
「それどころかママチャリライダーの姿もね」
「はあ? 何で?」
「認識力断絶現象さ」
「認識力断絶現象?」
御父さんの言葉に僕は眉を顰める。
何処かで聞いたことが有る。
どこだっけ?
「これまで培ってきた知識や経験それに常識等に沿わない物を見た時にマー君はどうする?」
「其れは……例えばどんな状況だ?」
御父さんの言葉に首をかしげる。
「例えば怪人の姿だマー君は見てどう思う?」
怪人が何か?
意味が分からないが……。
「怪人は怪人だろう?」
「そう其処」
「はい?」
ガリガリと御茶請けの漬物を齧る御父さん。
良いけど塩分が多いから血圧上がるぞ。
「話が長くなりそうだから分かりやすく言うな」
色々と説明してくれたのだが今一つ分からなかった。
だが暫く聞いてると段々理解できてきた。
要するに普通の人は超常の存在を知覚し認識できないのだ。
此れまでの常識が邪魔をして。
超常の存在が何かしたとする。
其れは普通は精々気のせいと言うレベルに落ち着く。
若しくは其れを不自然と思わない。
そうなると最早他人事になってしまう。
それも致命的なレベルに。
例えば今日の話をしよう。
僕が何時もの調子で歩いてたら怪人と遭遇し殺されるとする。
御父さんたちは僕が怪人に殺されたと認識する。
但し普通の人の場合は僕は通り魔に殺された思うのだ。
認識の齟齬。
というか認識した非現実が自分の常識に沿った物に置き換わるのだ。
無意識に。
そんな訳で普通の人は認識出来ないのだ超常の存在は。
出来ても自分の都合の良いように記憶してしまうのだ。
此れが認識の断裂現象。
正しく事実を認識出来ないのが普通の人間らしい。
「となると御父さんは……」
「改造されて認識できた」
「あ~~でも僕は怪人とかは今日初めて見たんだけど……」
「……多分だけどマー君さあ~~頭を打たなかった?」
「打ったけど?」
「それだっ!」
漬物を刺した爪楊枝を此方に向ける御父さん。
「へ?」
「詳しくは省くけが其れで急に認識出来る様になったんだ」
うんうんと、頷く御父さん。
「……」
「となると困ったぞ此のままではマー君は殺されるかもしれないぞ」
「誰に何でさっ!?」
「いや秘密結社に見られたし」
「そうでしたあああああっ! アノ組織が僕を見逃すとは思えないっ!」
御約束だよ。
秘密を見た者は消される。
此れは御約束だ。
「認識出来る様になった人間をあいつらが見逃すものか」
「そうだよね~~って何で?」
「簡単な話だ奴らのアジトは普通の人間に見えない此処までは分かるか?」
「うん」
「という事は普通はアジトが襲われないよな」
「まあ~~」
「自衛隊も警察も踏み込めない認識出来ないからだ奴らを」
「そうかも」
「だから奴らは悠々とアジトでのんびりしてるのさ」
「のんびりしてるって……普通は警備ぐらいしてるでしょ」
「してないぞ」
「はい?」
「奴らも事実を正しく認識出来る人材が少ないんだ」
「はあ」
「だから遊ばせておく人材の余裕が無いんだ」
あれ?
のんびりという言葉は何処に?
「普通はあいつ等何してんの?」
「怪人のメンテナンスに資金調達其れに新技術の実験かな」
「そんなに忙しいんだ」
「ああ確か全員で十人しか居ないとぼやいてた」
「少ないっ!」
「しかも給料ない上に休みなし」
「酷いブラックだっ!」
「悪の組織だからな」
え~~悪の組織って最悪のブラックだ。
「しかも御父さんが自分の死を偽装する為に色々したからな~~」
「何したの?」
ジト目で言う僕。
「施設を破壊した上に今後の生活の為に資金強奪したから劣悪な環境になってるだろう」
「何方が悪役か分からないんだけどっ!」
御父さん視線を逸らさないでください。
唯の強盗ですから。