ずっと傍にいる。
ーーー翌日。
俺とマリア、母親、事情を聞いた湯川さんと東栄で、湯川さんの運転する車で警察署に向かう。
これはマリア自身が導き出した答えだ。
東栄と会って、過去の事を全て思い出す事ができた。何もかも。何でもかんでも知ってるコイツは全知全能の神か何かか?
マリアの事を話した時はさすがに湯川さんも東栄も絶句していたが、それだけのものを背負いながら人の為に闘い抜いてきたマリアは、本当に凄いと思う。
「東栄、どういう流れで捜査は進むんだ?」
「警察署によるよ。なかなか受理してくれない所もあるしね。ただ、基本的には、届出→捜査→場合によっては実況見分の立会い→検挙→捜査状況や検挙の連絡→犯人となる人物の確認、これは写真やマジックミラーで行われる。あとは裁判かな。」
「結構、段階踏むんだな。裁判は顔を合わせなきゃいけないのか?」
「いや、合わせなくても済む制度を利用する事も可能だ。」
「着きましたよ。行きましょう。」
警察署の中ではひっきりなしに人が動いている。
「被害届を出しに来ました。」
マリアが直接窓口に行く。
「あーー、ちょっと待ってねー。面倒くさいねー、この昼時に。」
受付にいた中年男は頭をボリボリ掻きながら面倒くさそうに書類を出す。
「んじゃー、ここに必要事項書いて持ってきてー。」
俺達は筆記台に移動する。
「何アイツのあの態度!」
母親は憤慨していた。まあ、気持ちは分かるな。正直、ぶん殴りたい気分だ。
ーーー。
「書きました。」
「ふーん、性的暴行ねー!」
警察官の男の声に流石に俺も頭にきた。
「あなた、そういうのは大きな声で言う事では無いでしょ?!」
「貴方は?本人では無いなら下がってな。」
この言葉に東栄が動く。
「森川巡査部長。そこで待ってろ。」
そう言い残し、階段を上がっていく。
「何だ、あのガキは。」
どうやらコイツは東栄の正体を知らないらしい。
ーーーーーーしばらくの後。
複数人の男性を従えて降りてくる。
「坊っちゃん、コレはどういう事でしょうか……。」
森川巡査部長の前に立つ男達。
「署長……。」
森川巡査部長は状況を理解出来ずにいる。
「まずはこの会話を聞け。」
東栄はスマホに録音していた音声を流す。
いつの間に………。
ーーーーーー。
「森川、貴様!」
「いやー、このくらいなんて事無いでしょう?第一、誰なんですか、コイツは。」
「東栄警視総監の御子息だ、馬鹿者が!」
それを聞いて森川巡査部長は顔面蒼白になる。
「武田署長、この事は父上に報告させて頂きます。こんな怠惰で横柄な奴を巡査部長にするとは。 あぁ、あと一つ報告があるよ。大嫌いな警察に僕もなる事にしたから。大学ももう決めてるし、国家公務員一種も取るから、よろしくね。」
武田署長の顔面もみるみるうちに青白くなっていく。
「さて、本題だけど、天ヶ瀬さんの届出、どうするのかな、森川巡査部長?」
バンッと机を叩くと森川巡査部長に詰め寄る東栄。
「す、直ぐに捜査を開始します!」
「武田署長、森川巡査部長『君』にこの件、任せたから。 ヨロシクね。」
俺達は顔面蒼白な署員達を背に、警察署を後にする。
「ありがとうございます……。私だけだったら駄目でした。」
「アイツが駄目なだけです。誰も警察に楯突かないからいい気になってる輩が中にはいるんです。 でも、皆がみんな、そういう訳では無いので……。」
東栄、本当は警察が好きで、変えたいんだろうな……今の体制を。
「じゃあ、僕はここまでで。」
「ありがとな、東栄!」
「いやー、僕なんかで良かったらいつでもこき使ってよ!」
相変わらずのM野郎だな……。
「じゃあ。また!」
そう言い残し、東栄はタワーマンションの中に姿を消す。
「東栄君て、そんなに凄い子だったんだねー! お母さんとはPTAで何回かお会いしたけど、失礼なかったかや?」
PTAという言葉で一気に現実感に引き戻されるが、多分母親の事だから、失礼な事しかしてないような気がする。
「着きましたよ、イノン。」
「さ、行こうか、マリアちゃん!」
「へ?あ、あの………!?」
困惑するマリアを引きずるように連れて行く湯川さんと母親。
今からイノンモールで、マリアの洋服探し!
届出の件はドMの東栄に念押ししといたし、心置きなくモールでマリアの洋服選べるぜ〜!(エロスな心)
モール内に入ると、やはり夏休み真っ只中という事もあり、人でごった返していた。
「うっ…………人混み……。」
早速、人酔いしそうだ。
「あ、あの、お母様!」
「ん?どうしたの、マリアちゃん?」
「彊兵さんと、少しだけお話したくて……。」
マリアがチラッと俺の方を見てくる。
「……わかった。私達、そこのベンチにいるから。話しといで。」
「ありがとうございます!」
「彊兵……。ちょっと人の少ない所に……。」
「?……わかった。」
俺達は人混みを掻き分け、休憩スペースの椅子に座る。
「何?話って。」
俺の顔を見れないのか、ずっとマリアは俯いていた。 そして、やがて重い口を開く。
「彊兵は、私でいいの?この身体は義父に汚されてる。もう、何度も何度も……。分からないくらいに汚されてる……。体中、全部。」
これがマリアを縛り続けていたのか。それに俺は気付く事が出来なかった………。
「マリア……ごめん、俺は彼氏なのに、マリアの異変に気付けなかった。マリアの助けを求める声を聞けなかった。だから……今度からは、ちゃんとマリアの心の声も聞けるようになるから。傍にいて欲しい。そんな汚れ、俺が洗い流すから。だから、傍にいてくれないか、ずっと。」
「そ………それって…………。」
マリアの顔がどんどん赤くなっていくのが分かる。何故なら自分もだからだ。
「プロポーズ……になるのかな!本当なら指輪とかあった方が良かったんだけど、また仕切り直させて(笑)」
俺の言葉とほぼ同時にマリアが胸に飛び込んでくる。
「喜んで!私こそ、ずっと傍にいさせて下さい!」
「ずっと言えなくてごめんなさい………。」
「マリアが謝ることじゃないよ。」
俺達はお互い抱きしめ合った。
互いの心を確かめ合うように……。
「ヒュー! キョウちゃーん、やるじゃない!あ、但し結婚は二人共卒業してからね!」
柱の陰からヌッと顔を出した母親と湯川さん。
「全部聞いてたのかよ!」




