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天ヶ瀬戦 その1

机にカバンを置き、椅子に腰掛ける。

取り敢えず、天ヶ瀬の事はさておき、田原の事は何とかなりそうだ。


ーーーいや、よくない!

さっき廊下の隅に天ヶ瀬がいたのに田原を一人にしてしまった!

俺は猛ダッシュで教室を飛び出した!


「おい、田崎!もうホームルーム始まるぞ!?」

友人の言葉にも構っていられなかった。 


田原は、天ヶ瀬に脅されていたとはいえ、しっかりと頭を下げて謝罪してきたのだ。

それに、あの感じだと、天ヶ瀬が後ろにいた事を知らなかった筈!

だとすれば、あの謝罪は誠意のある謝罪!


「どこだ、田原。もう帰ったのか?」 

下駄箱を確認する。

ーーーそこには。

上履きがあった。

何とか帰ることが出来たみたいだな。


「危害は加えていませんよ?」

廊下の方から女性の声がする。

振り返ると、そこには天ヶ瀬が立っていた。


「昨日の夜、田原を呼び出して脅していたみたいだな。どういうつもりだ!?」

俺の問いに対し彼女が口を開く。

「また危害を加えられたら困るでしょ?だから、念押しをしておいたんです。」


「危害は加えていないんだな?」


「加えていませんよ。でも、何でイジメられてきた貴方が、そこまでして彼を守るんですか?」

彼女の言う言葉にも納得できる。今までの間ずっとイジメを受けて来て、あの謝罪一つで許せるわけじゃない……だけど……。


「天ヶ瀬、お前は俺を護る為にいるって言ったよな。だけど、そのまま田原に危害を加え続けたら、お前は田原と同じ事をしてる事になるぞ。」

田原は確かに俺を虐めてきた。でも、その彼が心底恐怖を感じている。

今、俺と同じ立場にいるんだ、田原は。


「これ以上、田原に危害を加えると言うのならば、お前とは付き合えない。」

俺はキッパリと言い放った。


「え…。」

愕然とし、その場にヘナヘナとへたり込んでしまう天ヶ瀬。

ーーーえぇ〜!?


「あま、がせ………?」

「一人にせんで!?付き合ってくれるって言ったじゃん!!やめるから!田原に危害加えないから!お願い………。」

作戦の効果が絶大過ぎた……何か罪悪感。


「わかったから、泣かないで!わかったから!」 

ジロジロ見てくる生徒達。

お前ら、もうすぐホームルーム始まるんだからどっか行け!


「おいコラ、またお前らか!ホームルーム始まるぞ!教室に戻れ!」

生徒指導の石原だ。 今回ばかりは有り難い!

「ほら、戻るぞ。天ヶ瀬。」

俺が天ヶ瀬を引っ張り上げる。


フワッと香る柑橘系の香りが鼻をくすぐる。

髪の毛もサラサラだし、身体は、フニフニしてて柔らかい。

って何考えてんだ、落ち着け、俺!


「ありがとうございます。もう大丈夫です。サヨナラしないですよね?」

「し、しないから!」

恥ずかしくて顔も見る事ができない俺はそっぽを向きながらそう答えた。


「イチャつくなら、下校してからにしろー!」

石原の怒声に二人共急いで教室に戻るのであった。


ー昼休み


食堂にやってきた俺は生姜焼き定食を注文していた。

この学校には、一応小さめではあるが食堂があり、そこで昼食を摂る生徒も少なくない。 


「おい田崎、さっきはどうしたんだよ、俺の忠告も無視して飛び出して行って。」

そう言って俺の向かい側の席に座ったメガネ君は「東栄とうえい 英二えいじ

生粋のオタクで二次元以外には全く興味が無い。

ヒョロヒョロで運動音痴だが、頭は良い。


「わりぃ、下駄箱に財布落として来ちまってて。」

「マジかよ、あったのか!?」

「あったよ、済まなかったな、あの時返事出来なくて。」

俺は生姜焼き定食を突きながらそう言うと、返事は全く違う方から掛かってきた。

いや、寧ろ返事ではないが。


「キョウ君?キョウ君じゃない?!」

声のする方を見ると、ツインテールの金髪美少女が立っていた。


「ドナタデスカ……?」

マジで分からない。何でこう立て続けに美少女に話しかけられるんだ?


背は150センチくらい。とても華奢な体つきをしている。 

金髪のツインテールがよく似合う、まさに美少女だった。


「えぇ…!?幼馴染の顔、忘れちゃったの?」

「私だよ。刈谷、刈谷詩穂!」

刈谷…詩穂。

今朝、天ヶ瀬が言ってた刈谷詩穂って、この子か!

田崎彊兵たざききょうへい!難しい字で、こう書くでしょ!」

お手拭きにポケットから取り出したボールペンで俺の名前を書いた。


思い出した……。昔よく一緒にカブトムシ取ったりして遊んでたあの子か。

あの時は寧ろ男の子っぽかったが。

でも、親の仕事の事情で引っ越して……。


「戻ってきたのか、詩穂。」

俺がそう声をかけたその瞬間

「思い出してくれたんだ、ありがとー!」

思い切り抱きつかれる俺。

ふにょんとした柔らかい感触が胸の辺りに当たる。

こ、これはもしや…もしかしなくてもアレや!

「だー!学校で抱きつくな!」

俺は全力で詩穂を押し剥がす。

「学校以外ならいいんだ?」

詩穂がにひひっと笑ってくる。


「いや、俺…彼女いるから………。」

その言葉に空気が一変した。


「田崎、俺はあっちで飯食うわ…。」

何かを察した東栄はそそくさとテーブルを後にした。


「彼女いるって、どういう事!?私を彼女にしてくれる約束は?!」

テーブルをバンッ!と叩き、睨みつけてくる詩穂。


そんな約束したかな……。

と、考えを巡らせていたその時だった。


「刈谷さん、どうされたんですか?」

俺達のテーブル脇に天ヶ瀬が立っていた。

いつの間に……忍者か、お前は。

心の中でツッコミを入れる俺。

これが、悪夢の始まりだとも知らずに。

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