皆とロッジ。
「また、このパターン。散々でしたね……。」
伊古部警察署から出てくる俺達に優しく声を掛けてくれる湯川さん。
湯川さんが元警察官で、伊古部警察署の方が、顔見知りばかりだったと言う事もあり、話は結構スムーズに進んでいったのだ。
でも、やはり担当した警察官から出た言葉は『やり過ぎ』だそうで、軽くお叱りを受けて来たところだ。
「でも、あいつ等もあいつ等ですよ! あんな場所で喧嘩なんて!」
木陰に隠れていた奈緒ちゃんはさっきからずっと憤慨している。それに関しては俺も何も言えなかった(汗)
「まぁ、何も無かったんだし、良かったじゃない!段々と日も暮れてきちゃったし、そろそろロッジに向かいましょうか!」
湯川さんの言葉に、全員荷物を詰め込み、車に乗り込む。 俺は窓を開けると、鼻から空気を一杯になるまで吸い込む。
俺は潮のニオイが大好きだ。また、来れるといいな、いつか。
車の窓を閉め、横の座席を見る。隣には天ヶ瀬さんが座っている。彼女は疲れたのかスゥスゥと寝息を立てて眠っていた。
天ヶ瀬さんは、あの状況下、どうして咄嗟に俺に味方したのだろう。 もしかしたら俺から喧嘩を吹っかけていたのかもしれないのに………。
それだけ俺を信頼してくれているという事なんだろうか。
『ありがとう、天ヶ瀬さん』
俺は自然と頬にキスをしていた。 湯川姉妹は運転席と助手席に乗っているから、バレてないよな……。
と、チラッとルームミラーを見ると、湯川姉がニヤリと笑ってくる。
見てたのかーーーーーーーーー!?
こんな恥ずかしいとこ、湯川さんにミラー越しに見られるなんて、何という公開処刑!
『ちなみに、私も起きてますから。』
天ヶ瀬さんが小声で呟きながら、こちらをチラッと見てくる。
彼女は突然、ムクッと起き上がると、俺の頬にキスをして来た。
『お返しです。』
そう言ってまたシートにもたれ掛かり眠り始めた。
再度ルームミラーを見ると、また湯川姉がニヤニヤ笑っている。
また見てたのかーーーーーー!?
運転しろーーーーーーーーー!!
「ねぇ、お姉ちゃん、さっきからずっとニヤニヤ笑っててキモいんだけど。」
奈緒ちゃんの辛辣な一撃に、運転に集中する姉だった。
ーーーーーー。
俺達はロッジに着くと、荷物を下ろして受付を済ます。
『湯川様、ロッジ2棟ですね。』
………2棟?
俺達は荷物を持ち、指定されたロッジに向かう。
夏だから結構このロッジも賑わっていた。
基本的にフリーで、花火やバーベキューをしている人もいた。
「ここですね。ロッジは二つあります。私と奈緒ちゃん。もう一つは彊兵君とマリアちゃんで入ってもらいます。」
湯川さんが部屋割を告げる。
「はーい、異議あり!おかしいです!!部屋割りが既に決まってるなんて! 彊兵先輩と私が同じ部屋なら分かりますけど……。 せめてくじ引きにすべきです!」
奈緒ちゃんの異議もまぁ、一理あるちゃあるな。
「そう言われると思って、くじ引き作ってきました!」
湯川さん、意外にノリノリだな。
「先端には青く塗った紙が二枚、赤く塗った紙が二枚あります! 同じ色の紙を引いた人と一夜を過ごします!」
言い方言い方! とにかく、これで天ヶ瀬さんと同じ色が出れば!
俺達は自分の選んだ紙の先端を持つ。
「やり直しは無効!せーの!!」
俺『青』
天ヶ瀬さん『赤』
奈緒ちゃん『赤』
湯川さん『青』
どうしてこうなった……。
最悪の組み合わせがここに出来上がった。
「お姉ちゃん、もしかして、わざと?」
「違います!私は髪の色が見えないように握って、皆一斉に紙を選んだでしょ?」
そう。湯川さんの言う通り、湯川さんは左手で長い短冊状の色のついた紙を、色が見えない様に握っていた。
紙を引いたのも同時だから、イカサマしようがない。
「とにかく、やり直しは無しだから!」
湯川さんは頑として譲る事なく、荷物を振り分けていく。
天ヶ瀬さん達、何も無ければいいが……。
不安が募る一方だった。




