またこのパターン。
「もしかしたら、もう少しで思い出せるんじゃないですか?」
湯川姉はいつも天然で、楽観的だが、それが長所でもある。
「先輩、悔しいですが今回は奈緒さんの勝ちです……奈緒さんの所に行ってあげて下さい!」
「……………分かった。」
確かにルールはルールだ。
俺は天ヶ瀬さんと離れ、奈緒ちゃんの所に向かう。
「ごめんなさい、奈緒ちゃん!」
「え?何がですか?行きましょう、海に!」
待っていた奈緒ちゃんの格好は相変わらず破壊力抜群で、道行く男達がジロジロ見てくる。
まぁ、このルックスでこのスタイル、この水着だからなぁ……。 そんな事を考えていたその時だった。
「ねぇ、そこのキミ! そんな冴えない男放っておいて………って、田崎!? 何でお前がこんな所に!?」
声の主は、さっき天ヶ瀬さんが話していた取り巻き5人だった。 過去の事件の事は全て聞いている。許せる訳が無かった。
「彊兵先輩……駄目ですよ、堪えて下さい!お姉ちゃんが警察を辞めてしまった今、庇ってくれる方はいません!」
奈緒ちゃんが腕を引っ張りながら、必死で止めてくる。
「くっ…………!!」
「何だよ、田崎!前みたいに自由に戦えないみたいだな……! こりゃチャンスだ、やるぞ!」
久々の登場で嬉しいのか、取り巻き5人が勢い良く飛び掛かって来る。
「って、黙ってやられるか、阿呆が!」
俺は迫ってくる男達を次々に叩きのめしていく。 その出来事はあっと言う間だった。
「た、ざき………。お前、前より強くなってね?」
ドサッと倒れ込む取り巻き4人。残るはあと一人だが、見た事無い奴だった。
「こいつ等をあっと言う間に倒すって事はある程度は出来るって訳か。」
男は他の取り巻き達と違い、2メートル近い巨体で、筋骨隆々な体躯をしている。
明らかに他の奴等と纏っているオーラが違った。
「行くぞ、ゴラァ!!」
男の鋭いアッパーが勢い良く迫る。両手で受け止めるが、威力が強過ぎて体が浮き上がり、後ろに弾き飛ばされる。
「明らかに他の奴等より強いな……。」
あのアッパーをもらっていたら、一撃だっただろう……。
「おらぁぁぁ!」
力任せで殴っている様に見えるが、的確に急所を攻めてくる。
思ったよりも攻撃が速く、防ぐのが精一杯だ。
「うぉぉぅ!!」
強烈なフックを腕で受け止める。 正直、腕が折れそうだ……。
でも、全力の大振り、力任せ。なんとかなりそうだ……。
………力任せ。そうか……!
「おぉぉぉぉぉぉ!!」
更に向かって来る大男。
俺はそのまま何もせずに立ち尽くす。
「彊兵先輩、何してるんですか!? 逃げて下さい!」
奈緒ちゃんが叫んだその瞬間、大男の右ストレートが放たれる。
「今だ……。」
俺は両手で右腕を素早く掴み、背中を大男に当てると、男の右腕を下方へと巻き込み、その勢いのまま、男を背負い、投げ飛ばす。
「がはっ……!!」
男は背中を強打するが、何とか立ち上がる。 だが、遅い!
「沈め!」
俺は跪く大男の左膝に乗り、右膝を側頭部目掛けてシャイニングウィザードを放つ。
と同時に。
大男に飛び蹴りを放つ人物がいた。
「先輩、大丈夫でしたか?!」
天ヶ瀬さんの放ったローキックは見事に肋を直撃する。
「ぐぅぅ……………!」
倒れ込む大男。さすがに側頭部への打撃と肋への強打。
同時の攻撃は耐えれなかったようだ。
辺りの海水浴客から拍手喝采が沸き起こる。と同時にライフセーバーと警察。
「またこのパターンですか……。」
がっくりと肩を落とす天ヶ瀬さん。
「ごめんなさい、こんな事になって。奈緒ちゃんもごめ………ん……。」
周りを見渡すが、俺達の周りには奈緒ちゃんの姿が見当たらない。
「どうしました?」
「さっきまでいた奈緒ちゃんがいないんだ。」
「まさか、逃げた…………?」
天ヶ瀬さんの言う事を信じたくはないが、奈緒ちゃんの姿が見当たらない以上、俺は何も言えなかった……。




