彼女の目的2
ーー放課後。
俺と天ヶ瀬は一緒にいた。
「先輩、一緒に帰りませんか?」
「あ、あぁ、いいよ。」
俺には断る理由がなかった。
それに、天ヶ瀬に聞きたいことが山程あるしな。
「天ヶ瀬、今日は何で田原にあんな事を?」
帰り道、天ヶ瀬と並んで歩きながら、俺は聞いた。
あんな事と言うのは勿論、盛大な蹴りと保健室でのあの言葉だ。
「先輩は覚えてらっしゃらないかも知れませんが、私は貴方に助けられたのです。」
そう言うと俺の方を向き、こう続けた。
「二年前に。」
二年前…………。
あぁ、俺が高校入りたての頃かな、近くにある中学校の女の子を助けたことがあったな。
複数人の男に路地裏に連れて行かれている所を見て、咄嗟に助けに行ったんだっけ。
その後、どうなったかよく憶えてないんだよな……。
「じ、じゃあ、あの時の女の子が!?」
「はい、私です。あの時は、ありがとうございました!」
俺の問いに、万遍の笑みを浮かべながら彼女はそう答えた。
「実は俺、あの時の事、よく憶えてなくて……。」
頭を掻きながら俺がそう言うと天ヶ瀬は
「やっぱり、そうだったんですね。」
とだけ答えた。
「何か知っているのか?」
まぁ、その現場の当事者だから、知らない筈はないか……。
「先輩が助けに来て下さった直後、不良達に……先輩は倒されてしまいました。」
ーーーあれ〜?
全然格好良くないぞ……。
「でも、その前に警察に電話をして下さいましたよね。そして……。」
続けて
「不良のリーダー格の男の脚をずっとしがみついて離さなかった。 どんなに殴られても踏みつけられても……。」
そんな事してたのか、俺は。 我ながら恥ずかしい……。
「その男は到着した警察に捕まって連れて行かれましたが、貴方はそのまま病院へ。 結局、名前も何も聞けず終わってしまいましたが……。」
そんな事が……断片的にしか憶えてないな……。
だが、彼女が嘘を付いている様にも見えないし、嘘をつく理由がそもそも無いな。
「でも、助けてもらった時に着ていた制服を見て、私もそこに入学すれば、あなたを見つけられるかも、と思ったんです。」
まさか、そんな理由で進学校を決めてしまうとは……。
でも、彼女の眼差しは真っ直ぐ俺に向けられていた。そこには嘘偽りは無い様に見えた。
「それから私は、貴方を護るべく武術を習い始めました。元々空手はやっていたので、他にもキックボクシングや、ジークンドー、ブラジリアン柔術、コンバットサンボ……それから……。」
あれ?話が段々とおかしな方へ向かってきたぞ……?
「ちょ、ちょちょっと待って!整理させてくれない?」
俺は武術を並べる彼女を両手で制した。
「つまり、天ヶ瀬は二年前に不良達に襲われそうになってるところを俺が助けに入って、で、天ヶ瀬は俺を護る為に武術を習い始めたと。」
「はい、その通りです。」
「でも、待って!俺がやられたのは分かるけど、でも天ヶ瀬が俺を護る理由にはならないでしょ?」
サッパリ分からない。何がしたいんだ、この子は。何が目的なんだ、一体。
「そんなの、決まってるじゃないですか!」
凄まじい剣幕で怒り始める天ヶ瀬。
さっきの田原の時の殺気オーラは感じられなかったが、別の何とも言えないオーラを纏いながら続けた。
「貴方を護りたいのは、あ、あな、貴方を、貴方にひ、一目惚れしてしまったからに決まってるじゃないですかぁ!!!」
……………………え?
聞き間違いじゃないよね……。
彼女が、お、俺に一目惚れ………。
学園一のアイドルとも称される彼女が……。
成績優秀、容姿端麗、学園一の美女の彼女が……一目惚れ…。
「あ、ありがとうございます……。」
顔を真っ赤にしながら俯く彼女に俺は何とも簡単な返答をするものだと呆れてしまった。
「あ、あの!」
「あ、あの!」
二人同時にお互いに声を掛けた。
ラブストーリーとかの定番でよくあるやつだ!
「あ、先輩からどうぞ!」
促されるままに、
「俺の事を護ってくれるのは有り難いんだけど、やっぱり危ないと思うんだよ……。」
キョトンとする天ヶ瀬。
「危ないって……私がですか?」
そう!天ヶ瀬があまりにも強過ぎて、しかもトドメまで刺そうだなんて言い出す始末。
このままだと、本当に死者が出てしまう!
「ご心配頂きありがとうございます!ですが、大丈夫です!今の私には殆ど敵などいませんから!」
そうそう、天ヶ瀬が相手ならどんなクズ野郎共が相手でもボコボコに…………ん?
違う違う!そうじゃない!天ヶ瀬の心配じゃなくて、寧ろ相手を心配してしまうわ!
「え……とね、言い難いんだけど、天ヶ瀬は強過ぎるし、本当にトドメを刺して相手を殺しちゃうかもしれないんだ!」
「…………。」
天ヶ瀬は黙って俺の話を聞いている。
「だから、約束してほしい。トドメを刺して殺すとか言わないと。」
俺は真剣に天ヶ瀬を見つめてそう言った。
「嫌です。」
はっやーーーーーーい!!
お断りの言葉が早過ぎる!!
「私はこれからも貴方を護り続けるし、相手が先輩に危害を加えるというのならば、容赦は致しません。」
キッパリと言い放つ。天ヶ瀬はどうやら本気の様だ。
「どうしよう……。」
俺と彼女、天ヶ瀬の奇妙なお付き合いが幕を開けた。