天ヶ瀬の想い。その2
「はい、田崎です。」
電話の相手は天ヶ瀬さんだった。
『天ヶ瀬です。先輩、今どこですか? 話がしたいです……。』
天ヶ瀬さんの悲しそうな声がスマホから漏れる。
俺は今まで天ヶ瀬さんとどんな関係だったのだろうか……。
「彊兵先輩……話をしてあげて下さい。 シコリの残ったままではお付き合い出来ないと思います。 ただ、私も同席させて下さい!」
今更だが、確かに奈緒ちゃんの言う通りだ。このままではいけない。
「わかりました。話をしましょう。ただ、奈緒ちゃんの同席もありなら……。」
『確かにその方がいいかもしれませんね。』
俺達は病院内のレストランで落ち合うことにした。
俺は奈緒ちゃんとレストランに入る。
見渡す限り、天ヶ瀬さんはまだ来ていないようだ。
俺達は適当な場所を選んで座り、アイスコーヒーを頼む。
天ヶ瀬さんが来るまでの間、奈緒ちゃんは頻りにあたりを気にし、ソワソワしていた。
アイスコーヒーが届き、シロップとミルクを入れて飲んでいると、やがて天ヶ瀬さんがやって来た。
湯川姉と共に……。
「お姉ちゃん…………。」
奈緒ちゃんは湯川姉の姿を見てたじろぐ。
湯川姉と天ヶ瀬さんは、無言のまま、俺達の向かい側の席に着く。
暫くの間、無言のまま時間が過ぎていった。
やがて、天ヶ瀬さんが口を開く。
「私達が出会ったのは二年前の事。私が暴漢に襲われそうになっていたところを、先輩に助けられました。私は先輩に守って頂けました。ですから、今度は私の護る番です。 責任でも何でもないです。私が先輩を護りたいんです!」
護りたい感情は、恋愛感情とは違うものなのだろうか。
「天ヶ瀬さんの『護りたい感情』は、『恋愛感情』とは違うのでしょうか。」
俺は率直な質問を天ヶ瀬さんに投げかけてみた。
「同じです。私の護りたい感情と恋愛感情は同じ順位にあります。私があの事件に遭わなければ、彊兵先輩とは出逢ってはいませんし、恋心を抱く事もありませんでした。」
天ヶ瀬さんは真っ直ぐな眼差しで俺を見てくる。
ここで、湯川姉がそれまで閉じていた口を開く。
「私もマリアさんと彊兵君の姿を見て来ましたが、お二人程の強い絆で結ばれたお方を見た事がありません。 だからこそお二人には別れて欲しくありません。」
お姉さんも、天ヶ瀬さんと同意見の様だった。
俺は記憶があった頃は、みんなにとって俺はどんな存在だったんだろうか。
「でも、マリアちゃんは彊兵先輩とは別れられたんですよね……?」
奈緒ちゃんの問に対してマリアはしどろもどろになりながら
「あれは、言葉のアヤというか、誤解というか、間違いというか…………。」
そう答える。
「とにかく、彊兵先輩は記憶が戻らず大変な状態です!あまり責めるのはやめてください!」
奈緒ちゃんは、両手でダンッとテーブルを叩き捲し立てる。
慌てふためいた湯川姉は驚愕の一言を放つ。
「じゃ、じゃあ、こうしましょう! 奈緒ちゃんとマリアちゃんと同時に付き合って、どっちがいいか彊兵君に決めてもらいましょう……!?」
ーーーーーーーーーは?
一同、開いた口が塞がらない状態だった。




