奈緒ちゃんと誤解。
「えーーーーーーーーーーーーー!!!」
耳を劈く様な、悲鳴にも似た声がリビングに響き渡る。
声の主は、奈緒ちゃんだった。
「き、きき彊兵、先輩……今何て……?」
奈緒ちゃんは驚愕し、口をパクパクさせている。
「奈緒ちゃん、どうしたの……いきなり……。」
俺が今まで聞いた事も無いような声だった。
何をそんなにビックリしたのか……。
「忙しいのを理由に会わなかった……。って事?」
「違います、違います!もっと後!」
「会えたはずなのに……。?」
「違いますわぁ!! 彼氏ってとこですよぉ!!」
何か言葉遣いがおかしいけど、そこにビックリしたのか………。
「奈緒ちゃんに言ってなかったっけ……?」
「聞いてないですぅ!それに、マリアちゃんには彼氏さんいるじゃないですか! 二股なんて最低ですよ!!」
奈緒ちゃんは大層ご立腹の様で、マリアちゃんに指差し、非難する。
「マリアちゃん、彼氏さんいたの?」
さすがの母親もそこはビックリしたのか、マリアに厳しい眼差しを向ける。
「さて、その彼氏とキョウちゃん、どっちを選ぶのか、私はキョウちゃんに千円ベットするわ!」
最悪だな、この母親は……。
「冗談はさておき、彼氏さんがいるのにキョウちゃんに手を出すのは感心しないわね。」
「違うんです!これは私が……!」
刈谷がフォローに入るがそれをマリアが遮る。
「お母様の言う通りです。申し訳ありませんでした………。」
そう言い、マリアは出ていった。
「マリア?待ってよ!」
刈谷も後に続いて出ていく。
「良いんですか、彊兵君?」
湯川さんは後を追えと言わんばかりだが……。
「こういうのは時間が解決してくれるわよ!」
親指を立てて、まさにグッドラック状態の母親。
「母さんが早目に解決しろって呼んで、湯川さんに迎えに行かせたんだろー!」
「よく分かったわね!でも、本当にいいの?追わなくて……って……初めからそうすりゃいいのに……素直じゃないなぁ。」
俺はいつの間にか家から飛び出していた。母親の言葉が言い終わる前に……。
このままじゃいけないって、わかっていたのに、意固地になって。
「マリアァァァァ!!」
俺の走る先にはマリアと刈谷がいた。
「な、何で……………。」
振り向いたマリアは涙を流し、泣いていた。
刈谷も一緒に………。
「ごめん、マリア……。忙しいのを理由にマリアの事を蔑ろにして、不安にさせていた。なのに、俺はショッピングモールでの出来事や、電話での出来事をいつまでも引きずって、認めたくなくて……意固地になってた。 ごめんなさい…………!」
俺は一人で意地張ってただけだ。つまらない意地張って、マリアのせいにしてただけ。
「先輩のせいじゃありません。私が間違ったやり方をしたせいで、先輩を傷付けてしまいました。」
「マリアが悪いわけじゃない。私が要らない事を言わなきゃ良かった。」
マリアも刈谷も謝ってくる。
それぞれがそれぞれ悩んで、苦しんでいたんだな。
「…………家に戻ろう。」
「「………はい。」」
俺達は三人で並んで自宅に戻っていった。
皆にも誤解を解きに。




