奈緒の心の内。その2
俺はモヤモヤしていて、とても眠れなかった。
時計の針はもう日付を変えようとしている。
「全然、寝れねぇ……。」
原因は簡単である。マリア、刈谷との事。
そして、最近の奈緒ちゃんの行動。彼女との密着度が高くなっているのだ。
密着度に関しては、ひとつ屋根の下一緒に暮らしている訳だから仕方ない。
それに湯川姉の言う様に、彼女には好きな人がいる訳だから、俺とどうこうある訳がない。
それにこの夏休み、まだ問題な点がある。石原の取り巻きが出て来ているという事だ。
奴等の事だから、再度捕まる事を恐れて余計な事はしてこないとは思うが……。
何せ、こちら側には情報が殆ど入ってこない。 何も起きない事を願うばかりだが……。
ーーーーーー。
「彊兵先輩、彊兵先輩……?」
うーん……誰だー。
「彊兵先輩ってば!」
「うおっ!?」
身体を思い切り揺さぶれて飛び起きると、そこには仁王立ちの奈緒ちゃんの姿があった。
「朝ご飯、とっくに出来てますよ! 昨日は疲れたでしょうから、ご飯はしっかり食べて下さい!」
奈緒ちゃん、何か機嫌悪いな………。
「はーい………。」
俺と奈緒ちゃんは階段を降りる。するとそこには既に母親と湯川さん、そして……。
マリアと刈谷がいた。
「な、何で……………。」
俺が今会いたくない二人が揃ってリビングにいるなんて……。
「申し訳ありません、私がお連れしました。」
湯川姉の言葉に母親が続ける。
「こういうモヤモヤしている事はね、早目に解決した方がいいのよ。 後々になって、あの時仲直りしていれば……なんて事になっちゃうんだから。」
俺の母親にしては、もっともらしい事を言ってくる。 でも確かにそうだな……。
まぁ、確かに警察や引越し、湯川姉妹の服の買い出しの付き合い……。 その間にマリアと会えたはずだ………。
でも、俺はそうしなかった………。
「マリア、ごめんなさい……!! 俺、あまり深く考えてなくて、忙しいのを理由に会わなかった……。 会えたはずなのに……。 彼氏なのに………!」
ーーー刹那。
「えーーーーーーーーーーーーー!!!」
耳を劈く様な、悲鳴にも似た声がリビングに響き渡る。
声の主は、奈緒ちゃんだった。
「き、きき彊兵、先輩……今何て……?」
愕然とした顔で奈緒ちゃんが俺を見てくる。
何がなんだか分からない俺は、皆に助け舟を求めるが、皆、俯きながらそっぽを向いていた。
まさにこれが修羅場の始まりだった……。




