奈緒の心の内。
玄関には刈谷が立っていた。
「何の用だ。」
「今日の事、さっきマリアから話を聞いたら、とてつもない事になってる事に気が付いて……。」
全く、余計な事を吹き込んでくれたものだな。
「キョウ君、ごめんなさい……。こんな事になっているなんて知らなくて……。」
頭を下げてくる刈谷だが、今の俺には到底、許容できるものでは無かった……。
「刈谷、すまないが明日にしてくれるか。今日はもう疲れてそれどころじゃないんだ。 明日、マリアとも話すことになっているから、その時でいいか?」
「わかりました。夜分遅く、失礼しました……。」
刈谷はそう言うと玄関を締め、去っていった……。
「大丈夫ですか?……彊兵先輩、顔色が悪いですよ…………?」
奈緒ちゃんの言う通り……、正直体調は良くない……。
「部屋に戻って寝る事にするよ。」
俺は奈緒ちゃんに声を掛け、階段を登る。
「…………………?」
俺の目の前が急に暗くなる……。
なん…………だ………?
ガタガタガタ……!!
ーーーーーー。
ーーー。
「彊兵先輩………!! 彊兵先輩!!」
目が覚めると、俺は奈緒ちゃんの膝枕で横になっていた。
「キョウちゃん、目が覚めたの!?」
「彊兵君、大丈夫!?」
聞き覚えのある声が二人……。
俺が目を向けた先には、母親の姿と湯川さんの姿もあった。 帰ってきてたのか……。
「キョウちゃん、良かった! 救急車はどうしましょう。」
「大丈夫……母さん。ちょっとした貧血だと思うから……。寝てれば治るよ。」
これ以上、ポンポン病院行って迷惑かけたくはない……。
「彊兵君、明日の事は私からマリアさんと刈谷さんにお話をして、予定をキャンセルさせて頂きます。」
湯川さんはそう言ってスマホを手に取る。
「お願いします……。」
「お母様、私が今日は彊兵先輩に付き添いますので、お休み下さい。」
奈緒ちゃんの肩を借り、階段を登る。
「お母様、私も付いていますので……。」
湯川さん姉妹が付いていてくれるならと、母親は寝室へ戻っていく。
こういうアッサリした母親だと、息子の俺からしたら有難い。 粘着タイプの母親は、何かと面倒くさそうだからな……。
倒れた俺が言うのもなんだが……。
「彊兵先輩、ベッドに座れますか?」
奈緒ちゃんは肩を貸しながら、ベッドまで歩いていく。
甘い香りが漂ってくる。奈緒ちゃんの髪の毛の香りだった。
……何で俺ってのはこういう時にまで、余計な事を考えるんだ? 変態か?
「降ろしますよー!」
ズルッ!!
ベッド脇に敷いてあるマットがズレたらしく、奈緒ちゃんが態勢を崩す。
「きゃっ………!?」
ドサッ…………!!
俺はベッドに上手く寝転がれたが、奈緒ちゃんは、何故か俺の上に馬乗りになる様に覆い被さっていた。
「だ……大丈夫……ですか?彊兵先輩…………。」
「俺は、大丈夫……奈緒ちゃんは……?」
俺の問いに奈緒ちゃんは俯きながら答えた。
「大丈夫じゃないです……!」
「どこかぶつけたの………?大丈夫………!?」
「ですから、大丈夫じゃないんです!」
寝転がる俺の両腕を押さえながら、奈緒ちゃんは馬乗りになったまま、見つめてくる。
「奈緒ちゃん……。」
心拍数が上昇しているのがわかる。
「彊兵先輩………。」
「はい、そこまでー!」
湯川姉がドアを蹴破るが如く、入ってくる。
「奈緒ちゃん……なにしてんの?」
「お、お姉ちゃん、これは……その……。」
「俺が倒れたところを庇ってくれたんです。他意はありません。」
「まぁ、彊兵君も奈緒ちゃんも、好きな人いるから、そんな事しないか!」
湯川姉のその言葉を封じる様に
「わー!!そういえば先輩、すっさまじく眠いらしいから、お姉ちゃん、部屋から出て行こう!」
と言うと、奈緒ちゃんは姉の背中を押し、部屋から出ていった。
「何だったんだ……?」
取り残された俺は、奈緒ちゃんの謎行動に悩むばかりだった。




