彊兵と奈緒と。
自宅に着いて、俺はスマホを見つめる。
LIMEには既読は付いているが、一向に返信がない。
「はぁ、何なんだよ、一体……。」
俺は不貞腐れてベッドに横になる。
せっかくの夏休み、このままで終わるのかな……。 否、そんなわけには行くか!
何でこうなったかは分からないけど、こなままではいけないのは分かる。
俺はマリアに電話をかけた。
ーーーーーー。
『はい、天ヶ瀬です。』
「あ、俺だけど。彊兵……。」
『知ってます。何か御用ですか?』
「今日の男の人って、本当に彼氏……?」
『はい。今日言ったように彼氏ですが。』
何で……そんなに淡々と言えるんだよ……。
「じゃあ、俺との関係は?」
『終わりに決まってますよ。では、忙しいので失礼します。』
マリアとの電話は強制的に切られてしまった。
「何なんだよ、一体!」
俺は怒りのあまり、スマホを壁に投げつける。
その音に気が付いたのか、湯川姉妹がノックしてくる。
「彊兵先輩、大丈夫ですか?」
「彊兵君、大丈夫?」
「あ、あぁ、大丈夫!ちょっと物を落としちゃっただけだから!」
俺には心配してくれる二人がとても有難かった……。 一体、何があったんだよ……。
ーーーその後、夜7時になろうとしていた頃、俺は一階のリビングにいた。
しばらくして、湯川姉が階段を降りてくると
「彊兵君、石原の件、全てカタが付いたわ。取り巻きも全て自白してるし、石原は有罪確定だろうって。」
と報告してくる。
「そうっスか、ありがとうございます。」
「………………?はい…。」
湯川さんは首を傾げながら二階の自分の部屋に戻っていく。
今の俺にはそんな事、もうどうでもよかった。
あの衝撃的な出来事、絆、友情、デート。
そんなに簡単に忘れちまうのかよ……。
もうどうでも良かった。
「彊兵先輩、今からコンビニいきませんか?勿論、さっきの疲れが取れていればですけど……。」
リビングに奈緒ちゃんが降りてくる。
コンビニか……気晴らしにはいいかもな。
「わかった、行こう!着替えてくるから待ってて!」
俺は二階の自分の部屋に行き、今日、奈緒ちゃんのセレクトしてくれた服に着替えてリビングに戻る。
「お待たせー。」
「うわー!今日選んだ服、早速着てくださったんですね!とっても似合ってます!」
両手を胸の前で合わせて飛び跳ねるように喜んでくれる奈緒ちゃん。 着てよかった!
マリアの事は気になるが、今はコンビニに気晴らしだ!
俺はまだ明るい空を見上げながら、奈緒ちゃんと二人、並んで歩いていた。
まだ夏休みに入ったばっかりで、やりたい事は山程あったのに……。
「彊兵先輩、今日はずっと浮かない顔をしてますね。何かあったんですか?」
奈緒ちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「な、何でもないよ!?」
俺が顔をそむけたその時だった。
「おやぁ?お兄さん、可愛い子連れてるねー!!」
いきなり前からガラの悪い、いかにもチンピラを絵に描いたような人間が三人、声を掛けてくる。
「面倒くせぇのが、出てきたなぁ。」
俺にはもうこういう類の連中はウンザリだった。
「彊兵先輩………。」
奈緒ちゃんは完全に怯えてしまっている。
「お姉ちゃんに電話しといてくれる?」
「わかりました!」
奈緒ちゃんは直ぐにスマホを取り出し、姉に電話をする。
「さぁ、どいつからやる?」
「おいおい、このガキ、マジで俺等とやる気だぜ。 ぶっ殺してやるぁ!」
三人まとめてか。手っ取り早い。
「オラァ!」
喧嘩パンチか。そんなもんが当たるかよ。
左パンチを右手で払うと左肘打ちで首元を狙い打つ。
「………がっ!!」
まず一人。 肘打ちを食らった男はそのまま失神した。
「クソガキがぁ!」
右ハイキック…………。
ゆっくりとした、弱々しいハイキックを左肘で受けると、そのまま右手で掴む。
受けた左肘を離し、左手でも右脚を掴み、持ち上げる。
「うおぁあ?!」
受け身もろくに取れずに、倒れ込む男。
直ぐ様、拳を振り下ろす。
「ーーーーーー!!!」
金的だ。
ーー金的とは、男性の睾丸に向かって攻撃をする方法だ。
残るは一人………………と振り向くと、そそくさと逃げていくチンピラ。
だ、ダッセぇ…………。
「奈緒ちゃん、大丈夫だった?」
「はい!………先輩、強いんですね……。」
奈緒ちゃんにはそう見えたのかも知れないけど……コイツ等が弱かっただけなんだよなぁ………。
その時だった。
湯川巡査が車で駆けつけた。
「大丈夫だった?!………って、大丈夫か、この状況見れば。」
「奈緒ちゃん、コンビニはお預けだね(笑)」
「えぇーーーーーー!!」
チンピラのせいで、俺達のコンビニタイムは事情聴取に切り替わった。




