奈緒ちゃん。
俺は奈緒ちゃんにセレクトしてもらった洋服と下着の会計を済ませ、店外に出る。
「あとはモール内をグルッと回ってみますか?」
湯川姉はモール内をグルッと回りたいらしいが、俺としてはそれよりもマリアを探したかった。
あの男は何なのか、マリアは何故あの男と付き合ってるなんて言ったのか……。
ーーーまさか!俺は知らない内にフラれていたのか!? それに気付かずにアホな顔して付き合ってるなんて言ってたのか?
だとしたら、いつフラれた!? 何が原因?原因があり過ぎて思い当たらない!
えぇい、こうなりゃ直接聞くしかない!
俺はスマホを手に取ると、マリアにLIMEでメッセージを送る。
『その男、誰!?』
ーーーーーー。
既読は付いたが、返信がない!
………フラれた、知らない内にフラれた!
「回りましょう!モール内をグルッと回りまくりましょう!」
俺は半ばヤケになり、湯川姉の提案通り、モール内を回る事にした。
あわよくば、マリアを見つけて問い詰めるつもりでもいた。
「彊兵先輩!ゲームセンターいきませんか!?」
奈緒ちゃんの指差す先には巨大なゲームセンターがあった。
ここならもしかしたら、マリアがいるかもしれない!
『ピロン!』
LIMEの返信が来たようだ。 俺はすかさずLIMEを開く。
『さっき言った通りですよ。では私達は帰りますね。』
俺の夏は終わった…………。
「彊兵先輩……?さっきから様子がおかしいですよ?もしかして、体調が悪いのですか!? お姉ちゃん、帰りましょう!」
俺の表情から何かを察した奈緒ちゃんは、直ぐ様帰る事を提案してくれた。
「えっ、これからが面白いのに……。」
何を言っているのか、全く分からないが、馬鹿なのは分かる。
湯川姉は、奈緒ちゃんに手を引かれながら、渋々帰る事にしたようだ。
ーーーマリアは何をしたいんだ?
まさか、本当に俺はフラれたのか?
だとしたらいつ、どのタイミングで?
いくら考えても分からないまま、湯川姉の運転する車に乗り込む。
すると隣に奈緒ちゃんが乗り込んでくる。
「彊兵先輩、私の………膝の上で良かったら………寝転がって下さい!た、体調悪いんですから!」
そう言いながら、そっと俺の頭と体を支え、膝の上に俺の頭を置いてきた。
ーーーうおおあおおえおーー!!
なんじゃこりゃ!フニフニして柔らかい太ももがダイレクトに俺の頬に当たるぅ!
しかも、何だ………!この甘い香りは!!
ーーーーーー。
気付いたら、自宅の車庫だった。
俺は、奈緒ちゃんの太ももで爆睡してしまっていたのか……。
「ごめん、奈緒ちゃん……。寝ちゃって。」
俺は目を擦りながら、ゆっくりと体を起こす。
「いいんですよ!そうしてって言ったのは私ですし……! その、寝にくくなかったですか………?」
モジモジしながら奈緒ちゃんが聞いてくる。
「………あ、いえ、気持ち……良かったです………。」
よく見ると膝の上に俺のヨダレがーー!
「ごめん!直ぐに拭くから!」
「え?あ、いいんです、気にしないで下さい!それだけ疲れていたんですよ!」
奈緒ちゃんはそう言ってるが、男が垂れ流したヨダレをそのままにしておきたい訳がない!
「ちょっと待っててね!」
俺は服のポケットからハンカチを取り出すと、太ももに付いたヨダレを拭き取る。
「……………………んんッ!」
何だ今の、奈緒ちゃんのセクシーな声はぁ!!
「ご、ごめん、でも……取れたから!」
「………………はい……。」
ーーー何とも恥ずかしい時間が流れていく中。
「あの、お二人さん。いい雰囲気のとこ、悪いんだけど………私もいるのよ。」
運転席からこっちを見ながらニヤニヤする湯川姉。
俺はハッとして、湯川さんに耳打ちする。
『どうか、この事はマリアには!他意は無いんだ!』
『でも、マリアさんには新しい彼氏さんがいるんじゃないんですか?』
地雷だった。
そうだ!誰なんだ、あの男はーー!!
それから俺は、LIMEであの男の事をマリアに聞いたが、既読は付くものの、一切の返事が返って来ないのであった。
この時の、彼の奈緒ちゃんに対する対応が、更に状況を悪化させる事は、言うまでもなかった。




