最低な姉、降臨。
イノンモールの下着ショップ店前にて、バッタリと出会う二組と一人。
「あ、マリアちゃん!」
「あら……詩穂……と、先輩。」
ピリッと空気が張りつめる。
「マリアちゃん、そちらの方は彼氏さんですか?」
おーっと、いい事を聞いてくれたー!
これでコイツが何者なのか、分かるー!
「えぇ、そうよ。彼氏。」
ーーーーーーえ。
あぁーーーっと、田崎選手、これはとんでもないオウンゴールだー!
思ってもみない返答に、完全に石化してしまったーーー!!
「奈緒は?先輩とお付き合いしてるの?」
「え!?…………あ、あの!…………うん。」
うぉーーーーーーい、奈緒ちゃーーーん!
何言ってんの、いきなり!
付き合う違いね!買い物に付き合ってんのよ!?
「そう、お幸せに。」
そう言うとマリアは、スタスタと男と腕を組み、歩いて行った。
『彊兵君、さすがにこれは……どうなってるんですか?』
湯川さんが耳打ちしてくる。流石におかしいと思ったらしい。
『俺にも全くわかりません。あの男も初めて見ますし。』
そもそも、なんで偶然が必然のように、マリアと2回もこのどデカいモールで出会うのか! しかもこの短時間に!
「湯川姉妹、どっちかイノンモールに買い物に行く事、マリアに言いました?」
「はい!私は言いました。」
それは思いがけない方から手が上がった。
まさかの湯川姉だった。
「アンタが原因じゃないかー!」
「な、何でですか!私はただ、『警護も兼ねて、彊兵君と一緒に姉妹でお洋服を買いに行ってきます!』ってLIMEで送っただけですよ!?」
はぁーーーーーーーーー、この人は……。
「彊兵先輩、大丈夫ですか? ごめんなさい、私が付き合ってるなんて調子に乗った事言って……おこがましいにも程がありますよね!」
「へ?あぁ、大丈夫、大丈夫!」
それよりも、マリアの誤解を解かないと……。あと、あの男の正体も気になるし……。
あ、でも今日は洋服を買いに来てるんだった。 変に説明したところで更に誤解を与えるだけだ。
「じゃあ、次は俺の服買いに行こうか!」
『いいんですか?誤解を解かなくて……。』
『今行くと、余計に誤解を招くだけだよ。』
湯川さんの問いかけに俺はそう答えることしか出来なかった。
まぁ、俺の服は適当でいいな。
最悪、ジャージが二着あれば、あとはインナーシャツと下着で生きていける。
「とか思っていませんか、彊兵先輩!今の時代、男性もファッションセンスが問われるんですよ!」
な、心の中を読むとは………エスパーか?
「しかしなぁ、どれもこれも同じに見えるんだが………。」
「そんな事言ってちゃ駄目ですよ!先輩は素材は良いんですから、何とかなりますよ!」
奈緒の言葉に湯川姉は思っていた。
『今日はいやに攻めるな。まさか、本気で彊兵君を手に入れるつもりなのでは!?』と。
「彊兵先輩は、この服と、この服を合わせて、パンツはコレで……。」
ちゃっちゃっと選んでいる奈緒を見て、普段は鈍感な癖にこういう時だけ鋭さを見せる湯川姉は思っていた。
『コイツ、マジでマリアさんから彊兵君を奪うつもりだ!』と。
そして、こうも思っていた。
『むしろ、奈緒はマリアさんと彊兵君が付き合ってるなんて知らないんじゃないか。』と。
ーーーその通りだった。
奈緒は、マリアと彊兵が付き合ってるなんて、知りもしなかったのだ。
ーーー解説終了。
「おぉー、人間、着れば変わるもんだな!」
俺は奈緒ちゃんのファッションセンスに心底感心していた。
「これ買ってくよ!」
「本当ですか!嬉しいです!」
奈緒はぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。
湯川姉は思っていた。
『天然な彊兵君は、ドンドンとフラグを立てていって、自らを沼に沈めている。』と。
ーーーその通りだった。
だが、姉はそのフラグを敢えて折らないことにした。
なぜなら、ドロドロなドラマ展開が大好きだから!この上なく好きだから!
○顔とか、中学○日記とか、奪い○、夏とか大好きだから!
最低な姉であった。




