退院一日前と奈緒ちゃん。
退院まで残り1日。つまり明後日の朝には退院となるわけだ。
今日も学校に行かずに、もうすでに夕方だ。
今頃、皆で帰り道ワイワイキャッキャやってる筈が、俺はベッドの上で一人きり。
めっちゃホーム・ア○ーン観たい気分だ。
あ、湯川巡査がいるから二人きりか。他意はない。
でだ、湯川巡査は今回の失態により、石原の捜査から外されてしまい、代わりに俺の身辺警護を付きっきりで行う事になった訳なんだが……。
代わりの警察官さんも、入り口に二人くらいいるけど、頼りなさそうな感じの人達だし、セキュリティーガバガバだし、警護はトイレにも付いてくるし……正直、まだ石原達とやりあってた時の方が、自由度が高かったな。
「しっかし、本当にやる事ないなー。」
俺の怪我はほぼ完治していた。昔から怪我の治りは滅茶苦茶早くて、医者も腰抜かす程だった。
「明後日には退院ですから、もう少しの辛抱ですよ。」
まぁ、確かに。湯川巡査の言う通りなんだけど。
ガラガラ……。
病室の扉が開く。
「……!東栄坊ちゃん……!」
湯川巡査が立ち上がり、敬礼をする。
「湯川さん、僕は警察の人間じゃないから、敬礼はいらないよ。」
言って、俺の隣に椅子を持ってきて座る東栄。
「まず、結論からいうね、田崎君。 石原は、今日逮捕された。田原もね。」
東栄はにっこりしながら、そう言ってきた。
「まてよ、英二。俺達が必死で集めた証拠は塵になってしまったんだぞ!? 何でそれで逮捕に繋がるんだよ!」
「結論からと言っただろ?これから説明するよ。 湯川巡査も聞いてください。」
英二は湯川を手招きすると、英二の向かいに座らせた。
「まず、田崎君の言ったように、証拠品はことごとく燃えてしまったが、自白等を録音したマリアさんのスマホは無事だった。 そして、何より大きな証拠が別宅だ。 別宅には地下室が手掘りで造られていて、中には裏DVDの貯蔵庫になっていた。 どうやら石原は、コレクションだけではなく、裏ルートを使い、密売もしていた様だ。 それについては現在調査中だ。 まぁ、それが決定打になり、逮捕に至ったというわけだね。」
英二は胸を張って説明するが、なんで君が知ってて、湯川巡査は知らないの?
「あ、あの……何で私はその事を聞かされていないのでしょうか。」
あ、やっぱり気になってたのね……。
湯川巡査は完全にしょんぼりしてしまっている。
「そんなの決まっているだろう!」
湯川を指差す英二。
「僕が説明したかったから口止めしといたのさ!ハッハッハー!」
両手を腰に当て、大声を張り上げるアホを俺はボディーブローで眠らせてあげた。
「残念だったな、英二。俺はもう動けるんだよ。」
「湯川さん、ごめんね。こいつ、悪気がある訳じゃないんだよ。」
俺の代弁に、湯川さんはクスリと笑う。
「分かってますよ、大丈夫です! 私は担当から外されたから知らなくても当然です。 これからは全力で田崎さんの身辺警護をします!宜しくお願いします!」
湯川さんはそう言うと、頭を下げてくる。
だが、一つ気になるんだ…………。
「石原と田原捕まったんなら、取り巻きも直ぐに捕まるよね? 警護、いらなくない?」
俺のその言葉に、病室の空気がピシッと凍り付く。
「確かに………。そうなったら、私は不要ですか!? 要らない存在ですかぁー!?」
一気に情緒不安定になる湯川巡査。
あー!どうして俺の周りは変な奴ばかり集まるんだ!
「大丈夫ですよ!(多分)クビなら英二が言ってきますって!(多分)安心していいとおもいますよ!(多分)」
俺は気休めにもならない、秘技『上辺励ましの術』を発動。
「えへへー!そうですよねー!頑張りますよー!」
湯川さんは秘技『ポジティブシンキング』で応戦。
完全に俺の負けだ。てか、そんなに簡単に気持ちって切り替えれるか?
ガラガラ……。
また誰か入ってきたようだ。
コツコツと革靴のような音がする。
「奈緒ちゃん!どうしてここに!?」
湯川さんの視線の先には、茶髪のポニーテールで、大きなリボンが良く似合う童顔の美少女が立っていた。
俺が通っている高校の制服を着ている。
背は140センチ程と小柄で、色白、華奢な女の子だ。
「これから彊兵先輩のお家にお世話になるんだから、挨拶は当然です!先輩のお母様には、先程ご挨拶を済ませて参りました。」
久しぶりに会う奈緒ちゃんはとても可愛くなっていた。昔は、見た目も性格も男の子っぽかったんだけど。
「彊兵先輩、これから宜しくお願いします!!」
奈緒ちゃんはニッコリと微笑んで礼をしくる。とても礼儀正しいいい子だ。
「こちらこそ、よろしくね!」
俺はこれから先、ドロドロな展開に巻き込まれて行く事も知らずに、脳天気に挨拶を交わしていた。




