家がない!
今、俺とマリアは、外で他の警察官の方と連絡を取っている湯川巡査を待っている。
「長いな………。」
「こってりと絞られてるんじゃないんですか?」
確かに、マリアの言う通り、こってり絞られてそうだな……。
ガラガラ……。
ゆっくりと力無く開けられた扉。
そして、力無くゆっくりと歩く足音。
カーテンから顔を見せたその姿は、まるで老婆のように覇気の無い湯川巡査だった。
俺とマリアは咄嗟に感じた。
ーーーーーーやらかしたな。
「先程、電話したところ、石原の別宅はおろか、私の自宅まで延焼して………2室全焼らしいです…………。」
斜め上を行く予想どころではない。
ーーーーーーなにやってんだ、この人。
別宅を突き止めても、別宅が全焼したんじゃ、証拠品なんか残ってるわけないな……。
なんか、とことん運がないな、この人。
「ご家族の方はご無事なんですか?」
俺が聞くと
「あ、それは問題ないですよー!」
脳天気な笑顔でそう言うと、続けて
「今は、私と奈緒しか住んでませんから!」
ーーーーーーえ。
「おばさんは?どうしたの?」
「昨年、亡くなりました。ですから、今は私と奈緒の二人暮しです。」
「それと、奈緒からは友達の家にいたから大丈夫だった。と連絡がありましたし。」
そっか、もう夕方………。
三日以上、学校行ってないんだ……。
「ですから……帰る家がありません……(泣)」
泣き崩れる湯川巡査。
きっと芸人だったら売れてるだろうなぁ……。
ガラガラガラ!!
「その話、聞かせてもらったわ!こっそり!」
母親が勢い良く病室のドアを開ける!
ここの病室のセキュリティーガバガバ説が濃厚になった。
扉も勢い良過ぎてガンッてなってるし、うるさいし……。
「田崎さん、病院は静かに!」
ナースさんには怒られるし………。
「うへへへ!へぃ、すぃやせん!」
水木し○る作風の顔で謝る母親は、もう肉親だと思いたくないレベルだった。
「んんっ! 実はそんな私とキョウちゃんと湯川姉妹に朗報があります!」
片手を上げ、軽く咳き込み、選手宣誓状態の母親は更に続ける。
「今は亡き、私のお父上の自宅が丸々空いております!しばらくは家がぶっ壊れてしまって、リノベーション中の私とキョウちゃんが住みます!」
「そこで、追加で湯川姉妹にも入居してもらいます!姉はキョウちゃんの警護を、妹さんはマリアちゃんと学校に行く事!」
さっさかと話を進めていく母親。
「ちょっと待って下さい!ご主人の許可は得られたのですか? それに私達が押しかけては、ご迷惑では!?」
湯川さんの言う事は、まぁ分かるが……家は……。
「問題ありまっせーん!夫とは離婚してまーす!だから気兼ねしなくても、二人くらい泊めてやんよ!」
親指を自らの胸あたりに当てて、誇らしげに語る包帯BBA。
こんなんだから、離婚したんじゃないんだろうか………。
「ありがとうございます、ありがとうございます…………!!」
湯川さんは涙でいっぱいになっていた。
「泊めて、やんよ!」
もうそれはいいんだよ、やめろ!
「ち、ちょっと待ってください!」
それまで口をパクパクしていたマリアがやっと言葉を発する。
「そ、そそれはつつまり、湯川さんと先輩がひとつ屋根の下…………と言う事になるのではないですか?!」
マリアが震えながら、母親に訴えかける。
「確かに……。マリアちゃん推しの私からすると、息子のムスコが湯川姉妹の色気に負けて、良からぬ行動を起こさないとも言えない。それは避けねば………。逆もまた然り。」
「お母様………。ワザと言ってますよね……。」
落ち込むマリアだが、俺にはそんな気は無い。
「マリア、安心しな。俺にはそんな気は無いから。」
ーーーーーーーーーーーー。
「お母様、何かありましたら直ぐにコチラにご連絡を!!」
マリアは電話番号の書かれた紙を母親に手渡す。俺は全く信用されていなかった。
「Roger!」
母親はこういうドロドロが大好物なの忘れてた………。
石原の件も終わってないのに、これからどうすりゃいいんだよーーー!!
ーーー退院まであと二日。……早くね?




