病院のもどかしさ。
「マリアさんて、どんな方ですか?」
俺の問いかけに湯川さんは一枚の写真を見せてくる。
それはとても綺麗で可愛らしい女の子だった。
「この方があなたの彼女の天ヶ瀬マリアさんです。 先日の聴取の後、自宅に戻らず、そのまま行方不明になっています。 今現在、捜索中です。」
…………そんな…………。
「湯川さん、今迄に一体何があったんですか? 爆破事件と彼女は関係してるんですか!?」
僕は何一つ覚えていない。 少しでも頭の中に入れておかないと、おかしくなりそうだ。
「……………。わかりました。 入り口には警察官も立っていますし、盗み聞きはされないでしょう。 その代わり、気分が悪くなったら直ぐに言ってくださいね。」
湯川さんはそう言い、今までの出来事を話し始めた。 ここは個室だから誰か部外者に聞かれることも無い。
ーーーーーー。
ーーー。
ー。
湯川さんから語られた話は筆舌に尽くし難い出来事だった。 ここで疑問が湧く。
「なら、どうしてあなた達はここにいるんですか?」
「……………私は田崎さんの警護を任されました。 犯罪に加担した不良達が来ないように24時間体制で警護をしております。」
そうか………。確かにこの状態で狙われたらあっという間にやられちまうな(笑)
「ところで、その証拠品となるカードとかはどこにあるんですか?」
その問いに湯川さんも刈谷さんも口を閉ざしてしまう。
「……………思ったよりも爆発物による火災の延焼力が高く、皆さんの脱出を優先した為…………。 全てが焼失してしまいました……。」
…………………そんな………。
今までの記憶がない俺でさえ、聞けば絶望的なのは分かる。
「あんたら、そんな危ない事やっとっただかん!? 湯川さんも、そんなん子供達巻き込んでやる事じゃないに!」
………………?方言……………?
「はい、申し訳ありませんでした……。」
何だろう……何か思い出せそうな………。
「俺の母親は、本当に怒ると方言出るから気をつけないとね。」
自然と、ポッと出た言葉だった。
「キョウちゃん、記憶が戻ったの?」
「いや、残念ながらこれだけだよ。」
「気長に行けばいいわ。じゃあ、私はちょっと疲れたから病室に戻るわ。」
そう言い、手を振る母親。
「ありがとう。」
「いいのよ、ゆっくり休みなさい。」
母親はそう言い残し、部屋を出て行った。
「キョウ君、他に何も思い出せない?」
刈谷さんの問いかけに、少し考えてみるも……何も思い出せない。
「ごめんね、思い出せないや(笑)」
「そっか………。じゃあ、私も帰るね。また来るわ。」
刈谷も病室を後にする。 残ったのは、俺と湯川さんのみ。
「えっと、湯川さんは…………?」
「?私はずっとここにいますよ? さっきはお手洗いに行ってたので、刈谷さんだけでしたが。」
「そうなんすね……………。」
休みにくいな……。
「私の事は気にしないで下さい。空気の様な存在だと思って頂ければ。」
湯川さんはそう言うと、近くのパイプ椅子に腰掛ける。
ただひたすらに、時間だけが無駄に過ぎてゆく。
でも、まさか俺がそんな大事件の中心にいたなんて。
さっきの説明では、他の三人の刑事さんは石原先生の別宅を探してるって言ってたけど、俺ならそんな家、証拠隠滅で燃やしちゃうなぁ…………。
ーーーーーー!
「湯川さん!」
「え、あ!はい!?」
「今、俺が石原先生の立場ならと客観的に考えてみてたんですけど、最近、不審火や火災なんてありませんでしたか?」
「不審火…………あぁ、ありましたね。三上緑地公園でディスクが十枚程燃やされているのが発見されています。…………まさか!」
「えぇ。自分なら別宅を燃やす。でも、燃やせば大事になる。なら、少しづつ証拠品を燃やして証拠隠滅を図るなって。」
「しまった、何で気付かなかったのかしら!すぐに連絡を!」
そう言い、湯川さんは携帯を取り出し、連絡を取り始めた。 大丈夫かな、この人達……。
早く回復して自分が行動したい気分に駆られた俺だった。




