マリアの行方。
目が覚めると、俺は病院のベッドの上だった。
体中に痛みが走り、自由に身体を動かす事が出来なかった。
左腕には点滴が挿されており、よく見ると包帯だらけだった。
「なんだこりゃ。」
俺の声に
「気が付いた?!聞こえる?キョウ君!?」
女性の声が聞こえてくる。
見覚えのない顔だった。
「ごめんなさい……どちら様でしょうか……。」
「…………え。」
俺の事を、キョウ君と言っていたという事は、俺の名前を知っているという事だ。
ん?……………そもそも、俺の名前は………?
「すみません、僕の事をご存知のようですが、僕は誰で、貴女は誰でしょうか……。」
金髪の女性は
「キョウ君、本当に何も覚えてないの?」
と聞いてくる。
………………キョウ君……。
「貴方の名前は田崎彊兵。私は…………幼馴染で…………。か…………。」
そこまで言うと彼女は押し黙ってしまった。
「どうかしましたか?」
俺は俯く彼女に声を掛けた。何か聞いたらまずい事を聞いてしまったのだろうか。
「私は、刈谷詩穂。貴方の幼馴染。貴方を裏切ってしまい、貴方をこれ程までに傷付けてしまいました。申し訳ありませんでした!」
そこまで言うと、頭を下げてくる刈谷さん。
正直、何がどうなっているのか、分からない。 だから、彼女に謝られても実感が沸かない。
「今回の爆破事件を引き起こす原因を作ってしまい、申し訳ありませんでした!」
彼女は何を言っているんだ? 爆破事件?
ガラガラ…………。
病室のドアが開く音が聞こえてくる。
コツコツとヒールの音が近づいてくる。
俺は殆ど身体を動かせない為、その音の正体が近くに来るまで分からない。
「刈谷さん、もう来てらしたんですね。」
「あ、はい。でも、その……………。」
姿を見せたのは20代くらいの髪の毛を後ろに1つで束ねたスーツを着た美人さんだった。
「彊兵さん、目が覚められたんですね!良かった! 実に三日ぶりですよ!」
三日…………? 俺は三日間目が覚めない状態で眠り続けていたのか!?
「えと、こちらの方は…………?」
俺には全く見覚えのない顔だった。 美人さんだなー。
「刈谷さん、これは一体………。」
「丁度、今先生を呼ぼうとしていたところです。どうやら、私達の事を何も覚えていない様なんです。 ナースセンターに行ってきます。」
そう言い、刈谷さんは病室から出て行った。
「彊兵さん、何も思い出せないんですか?」
「はい。刈谷さんから、自分の名前と爆破事件があった事という話は聞きましたが。 他は何も…………。」
「そうですか………。私は足伊達警察署の湯川と申します。今回のき、田崎さんの事件を担当しております。」
………事件。爆破事件の事か?
ガラガラ……………。
「湯川さん、先生をお連れしました。」
「田崎さん、私が誰か分かりますか?」
「病院の………先生………ですか?」
「そうです。こちらの方々の事は……?」
「皆さんからお話を伺うまでは誰か分かりませんでした。 今も、聞いた事以外は何も……聞いた事ですら、実感はありませんが。」
俺の話に先生は
「ショックによる一時的な記憶喪失でしょう。徐々に思い出して来ますよ。」
と言い、何かあったら呼ぶようにと告げ、病室を後にした。
「適当だなー。」
俺がボソッと呟いたのが面白かったのか、二人はクスクス笑っていた。
ガラガラ!!
今度は凄まじい勢いで病室のドアが開く。
「あ………丁度いらっしゃいましたよ。」
湯川さんはたじろぎながら場所を空けた。
「キョウちゃん!目を覚ましたのね!」
「えと…………………誰ですか?」
「はー、やっぱり記憶喪失なんだねー。」
「お母様、どうしてその事を?」
湯川さんの言葉に
「さっきそこの通路で先生から聞いたのよー。 無事ならいいわ。」
お母様って事は、俺の母親か?
「私はあんたの母親!で、家は火災で半壊!あんたは三日間、意識不明の重体。でも無事なんだから、ウケるわよねー!!」
こんな母親だったのか……なんか、嫌だな………(汗)
「今回は大変申し訳ありませんでした!」
湯川さんが頭を下げてくる。
「私も………本当にごめんなさい………!」
刈谷さんは泣いていた。
「なーに言ってんの、二人共! 今回の爆破事件は流石にビックリしたけど、私達は二人共生きてるし、家はリノベーションするいい機会だったのよ! ほら、なんかの機会が無いと、リノベーションしにくいじゃない?」
飄々と話す母親は、懐の広い、まさに大海原のような人だった。
「ところで、マリアちゃんは?」
「マリアちゃん?」
聞き覚え無いな。誰だろ……。
「私達も探しているのですが、自宅にも戻っていないようで……。行方不明です……。」
湯川さんはマリアって子を探してるのか……。どんな子なんだろ……。
「マリアって、誰なんですか?」
「田崎さんの彼女さんですよ。」
ーーーーーーえ。
「ちょ、ちょっと待って!俺に彼女いたの? 行方不明って何?どこに行ったの? 何があったの!?」
俺の言葉に誰も答えれなかった。 いや、答えなかったんだ……。俺に負担がかかるから。俺が探しに行くかもしれないから。
一体、何がどうなってるんだ、クソッ!
俺には、ただひたすら悪態をつく事しか出来なかった。




