反撃の下準備。
俺達は植物園から離れた場所、『恐竜博物館』前に来ていた。
博物館前には恐竜の等身大模型が立ち並んでおり、木々も沢山生えているため、日陰が多く点在していた。
地面も芝で覆われている為、とても涼しい。
取り敢えず、警察からは逃げて来たものの、田原を背負って逃げるのが困難な為、ここで何とかしのぐ事にしたのだ。
「ここまでくりゃ……大丈夫、だろう。」
大の男一人背負って全速力。
もう体はガタガタだった………。
「大丈夫ですか、先輩……。」
天ヶ瀬がおずおずと聞いてくる。多分、さっきの闘いを見たせいだな、無理もない……。
「マリア、すまないけど、俺のバッグからお茶を出してくれるかな?」
「あ、はい!ちょっと待って下さいね!」
マリアは俺のバッグからお茶を出すとキャップを開けて渡してくれた。
「ありがとう!」
俺はお茶を一気に飲み干すと、芝生に寝転んだ。
「キョウ君はそいつ、どうするつもりなの?」
刈谷が聞いてきたのは勿論、田原の事だ。
俺は体を起こし、立ち上がると近くに設置されているごみ箱にペットボトルを捨てる。
「まだ、考えてない。」
正直、いきなりコイツが現れて、今までのは友達ごっこだと言われて、闘って……実感なんか湧くわけがない。
「今、手元にあるのが5枚のSDメモリーカードとモニター。俺の家には、監視カメラがある。」
「まだあるわ。」
マリアがスマホを出す。
「以前の石原とのやり取りの録音データと、詩穂、ごめんね。今回の貴方の証言も録音させてもらってたの。」
「………いいのよ。当然だわ。私がマリアの立場でもやってただろうし。使って!」
刈谷の顔はスッキリしていた。まるで憑き物が取れたかの様に。
その時だった。
「……って〜!………どこだここは?」
田原のお目覚めのようだ。
「博物館だよ。弱い弱いいじめっ子君。」
田原を睨みながら、俺は嫌味ったらしくそう言うと首根っこを掴む。
「まだやるか?俺はまだまだ出来るぞ?」
そう言うと、田原はブンブンと首を振る。
「すまねぇ、もうやらない。」
俺の怒りはそんな言葉じゃ収まらなかった。
「やらない詐欺は正直、聞き飽きたんだよ! 一時でもお前を仲間だと思った俺が愚かだった。 二度と同じ事ができないようにしてやろうか!?」
俺は今すぐコイツを警察に突き出してやりたかった。だが、まだ石原を追い詰めるにはコイツがいる。
その時だった。
「田原先輩、貴方はやっちゃならない事をやった。 私の先輩を裏切り、女性を売り、人生をブチ壊した。」
マリアの言葉からは殺意が感じられる。
さっきの俺の様に……。
「田原先輩、貴方は今から私達の駒として動いてもらいます!」
「ーーーーーー!?」
この言葉は俺も刈谷も意図していない事だった。
「誰がお前の指図なんか受けるかよ!」
相変わらず、人により態度をコロコロ変えるやつだな。
バチィィィン!!
マリアのローキックが田原の太腿に直撃する。
「ーーーーーー!!!???」
最早言葉にすらならない悶絶。
田原は太腿を押さえながらジタジタするしかなかった。
ーーーガッ!!
マリアが田原の頭部を踏みつける。
「やるのか、やらないのかぁ!?」
マリア………さん……………?
「返事は!?」
ーーーバアァァァァァァン!!
今度はローキックが尻に思い切り叩き込まれる。
「やります、やります!やりますぅ……。」
田原は余りの痛みからか号泣していた。
ーーーガッ!!
再び、頭部を踏まれる田原。最早、どちらがいじめっ子なのか分からないほど凄惨だった。
「やりますじゃないでしょ、やらせて下さいなんじゃないの?!」
マリアのドSモードはもう誰にも止められなかった。
側頭部を足でグリグリ踏みつけられる田原。
「やらせて下さいぃ!お願いじまずぅ……。」
涙と鼻水まみれの田原は見るにも耐えない無残な格好だった。
カシャ!カシャ!
刈谷はというと、ここぞとばかりに情けない田原の写真を撮っていた。
女の子を怒らせると怖い、改めて俺はそう思った。




