疑心暗鬼。
ーーー翌日。
「よっ!おはよ!昨日、天ケ瀬の奴派手にやったらしいな!」
田原が朝一番、俺の顔を見るなり声をかけてくる。
「あぁ、刈谷の家の前に、お前の元仲間がいてな。」
「奴らから聞いてるよ。俺も含めて纏めて倒すとさ!笑わせるわ、あれだけやられりゃ、実力の差は明らかだろうによ!」
……………あれだけ、やられりゃ?
その言葉がイヤに引っかかった。
「昨日の夜中の出来事で、朝は8時には登校なのに、見舞いに行ったのか?」
「あー、いや、今朝、奴等から聞いたんだよ、どんな風にやられたのかよ!」
「……………そうか。」
やはり引っかかるな。
キーンコーンカーンコーン……。
始業チャイムが校内に鳴り響く。
田原、やはり安心しきれないな……。
どうしてもさっきの言葉が気になる。思い過ごしならいいが……。
その後、授業は滞りなく過ぎていった。
石原から呼び出しも食らう事なく……。
「おかしいな……何が起きてる?」
あれだけの事があったんだ。集会か何かあってもいい気がするが……。
何よりも、石原から一切呼び出しがかからないのも引っかかる。
石原が一度捕まってから、謹慎処分は無かったに等しかったが、開放された今、また呼び出しを食らってもおかしくはないハズだ。
ーーー帰宅時。
俺と天ヶ瀬、東栄の三人は視聴覚室にいた。
「先輩、田原先輩は今日は一緒ではないのですね。」
「ちょっと気になる事があってな。」
「気になる事?」
「あぁ。昨日の取り巻き連中との事を知っていたし、あれだけやられりゃと言っていた。あれだけという事は天ケ瀬にどんな風にやられたか知ってたって事だ。」
「という事は、あの現場にいたって事ですか?」
「その可能性は高いな。田原は取り巻きから今朝聞いたって言ってたが。」
俺のその言葉に、それまで黙っていた東栄が口を開く。
「今朝聞いたってのは可能性薄いですね。」
「何故そう言えるんだ?」
「田原君と僕は同じ通学路。昨晩から今朝一番にかけて、携帯に連絡が入っていれば別ですが、田原君は取り巻きと校門で鉢合わせになり、取り巻きから声を掛けられましたが、これを無視しています。」
なるほど……。
東栄の言うとおりならば、田原の言葉は信憑性に欠けるな。
携帯で会話をしていたならば、校門でも話くらいするはず。
「ですが、彼は元石原派。やはり油断は出来ませんね。」
天ヶ瀬の言う通りだ。今は何もないが元は石原側だった人間。
「石原を疑いたくはないが、確実に何もない事を証明するまではこの話し合いには参加させないほうが良さそうだな。」
俺はそう言ってからハッとした。
『天ヶ瀬、東栄。この視聴覚室内、盗聴されてないか盗聴器探すぞ!』
俺は視聴覚室の黒板にそう書き出した。
もし、田原があちら側の人間ならば、この視聴覚室に盗聴器を仕掛けていてもおかしくない。
「…………!」
天ヶ瀬と東栄も視聴覚室内に隠されているかもしれない盗聴器を探し始めた。
ーーー。
…………あった。クソッ!!
見つかったのはコンセントの差込口カバーの内側だった。
しかも、そこは俺達がよく座る席のすぐ近くだ。
『天ヶ瀬、写真に収めておいてくれ。』
黒板に書き出すと、それを見て頷く天ヶ瀬。
これで田原もこちら側でない可能性が出てきた事がわかった。
勿論、田原が仕掛けた証拠もないし、以前からあった物なのかもしれない。
(それはそれで問題だが……。)
だが、埃も付いてないし、比較的最近付けられたもののようだ。
とすれば、やはり疑わしきは田原か。
「取り敢えず、今日は帰ろうか。また明日話そう。」
俺はそう言い、カバーをそっと元に戻した。
視聴覚室を後にし、下駄箱に向かう。
「しかし、田原先輩は今日はあっさりと帰ったんですね。」
天ヶ瀬の言う通りだ。田原だけじゃない、刈谷の姿も見ていない。
「そうだな。待ち構えていてもよさそうなものだが……。」
俺達は靴に履き替えて学校を後にする。
どんよりとした曇り空がまるで俺達の心そのものを映し出しているようで、より一層の不安を掻き立てられていた。




