天ケ瀬の怒り。
三人は刈谷の家の前で待ち構えている取り巻き達と対峙していた。
「ここは刈谷さんのご自宅のはず。貴方達には用がない場所では?」
天ヶ瀬が仁王立ちで取り巻きを睨みつけながら問いかける。
「天ヶ瀬か。厄介な奴を味方に付けたな、裏切り者!SDカード出せよ!」
裏切り者と呼ばれていたのは、他ならない刈谷だった。
SDメモリーカードを出せと迫る取り巻き5人組。
「石原の命令ですか?」
「あぁ!?テメェには関係ねぇんだよ、天ヶ瀬ェ!!」
取り巻きの一人がハイキックを繰り出してくる。
「これで正当防衛ですね。」
右ハイキックを左腕で受けると、両手で右足を抱え込むように掴み、自分の体を横に回転させた。
「……………!?」
取り巻きの左足は大きく宙に浮き、身体は右側に傾く。
天ヶ瀬は一回転したあと、地面に踏ん張り、取り巻きの体を地面に叩きつけた。
「……………がっ!!」
思い切り地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
…………死んでないよね?
ドラゴンスクリューだろうか………。
(わからない人は調べてみてね!)
「…………次は?」
「……クソが!くたばれや!」
取り巻きBが金属バットを手に天ケ瀬に向かっていく。
「刈谷さんをそのバットで殴るつもりだったんですか?」
「しつけだよ、しつけ!主人に歯向かったらどうなるかってな!」
取り巻きBが金属バットを両手で振り上げたその瞬間。
バキッ…………!
鈍い、何かが折れた音とともに
ガラン!…………ガランッ!
と金属音が鳴り響く。
「………がっ、ぐぅ……………!!」
取り巻きBが右肘を押さえてうずくまっていた。
恐らくは右肘の関節を的確に狙った本気のハイキックなんだろう。
にしても、やる事が悪魔すぎる……。
「しつけなんでしょ?なら、私が変わりに貴方をしつけてやりましょうか?」
うずくまる取り巻きBの頭を地面に叩きつけるように足で踏みつける天ケ瀬。
「……ごめ………さい。」
「聞こえないよ!?」
更に足で後頭部を踏みつける天ケ瀬。
「ごめんなさい、ごめんなさい!!」
「大人しくあの世にいけよ、ムシケラ。」
天ケ瀬はそう言い放つと右脇腹に思い切りローキックを放った。
「ーーーーーーーーーーーー!!??」
もはや声にもならず、バタバタとのたうち回る取り巻きB。
天ケ瀬の様子がさっきからおかしい。
あそこまで徹底的にやる奴じゃ…………やってたか。
でも、明らかに口調と気迫が違っていた。
「金属バットで殴られるよりマシでしょ。感謝してもらいたいくらいだわ。」
天ケ瀬は残りの取り巻きを睨みつける。
「き、今日は見逃してやるよ!」
そう言って走り去る取り巻きに
「じゃあ、明日以降見かけたら、コチラから潰しに行ってやるから覚悟しときな!」
と天ケ瀬が叫ぶ。
その数分後、警察が来たのは言うまでもない。
流石は天ケ瀬。
警察が来る前に残された取り巻き二人に『余計な事話したら関節をバラバラにするからね。』と脅していた。もはやどちらが悪人か分からない。
取り巻き二人は完全にビビッて頷く事しか出来なくなっていた。
取り巻き二人は簡単に事情だけ聞き、そのまま病院送りになっていたから、本格的な事情聴取は後日になるだろうが。
残された俺達の事情聴取では、全員『ただの痴話喧嘩が発展してこうなった』の一点張りだった。
ただ、天ケ瀬はいくら相手がバットを持っていたからとはいえ、やり過ぎだと言われ、過剰防衛として警察から厳重注意を受けていた。
事情聴取が終わり、警察から開放された頃には日は変わっていた。
「こりゃ、親から大目玉だな。」
「すみません、先輩!私がやり過ぎたせいで!」
「キョウ君、ごめんなさい!巻き込んでしまって……。」
「気にすんなよ、俺達にできる事をやろうぜ。絶対に石原を許しちゃいけない。」
俺はまだ、この時知らなかったのだ。
何も始まってもいなかった事を。




